日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第54回大会
セッションID: OF-2-4
会議情報

F: 被ばく影響・疫学
チェルノブイリ周辺地区における甲状腺結節の長期的予後についての臨床疫学研究
*林田 直美関谷 悠以穴見 正信カズロフスキー アレクサンダーグテビッチ アレクサンダーサイコ アレクセイニロワ ニーナペトロワ アンジェリカラファルスキー ルスランチョールヌイ セルゲイダニルーク ワレリー山下 俊一高村 昇
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録
チェルノブイリ原発事故後、小児甲状腺がんが激増し、長崎・広島の原爆被爆者でも甲状腺がんの発症リスクが増加したことはよく知られているが、近年良性の甲状腺結節も線量依存性に増加することが示された。このことは、放射線被ばくが良性疾患の増加にも関与する可能性を示すものである。その一方で、チェルノブイリ周辺では、甲状腺がんの発生と甲状腺結節との発生頻度には地域ごとに強い相関があることが示されている。我々は、チェルノブイリ周辺地区において、これまでに超音波診断で甲状腺結節を指摘された住民のフォローアップ調査を行い、同地区における甲状腺結節の長期的予後についての臨床疫学研究を行った。 対象は、ウクライナ国ジトミール州において、事故時に0-10歳であった住民のうち、以前長崎大学が参画したプロジェクトでの甲状腺スクリーニングにおいて甲状腺結節を指摘された住民約160名(結節群)。対照群として、年齢、性別をマッチングさせた、甲状腺異常を指摘されていない住民約160名を調査した。両群において超音波検査を行い、結節を認めた場合には可能な限り細胞診を行い、診断を確定した。また、血液検査によってfT4、TSH、Tg、抗Tg抗体、抗TPO抗体を測定した。得られた結果を用いて両群における甲状腺異常(がんを含む)を比較検討した。 結節群と対照群で、年齢、性、甲状腺機能、抗Tg抗体、抗TPO抗体に差はなかったが、Tgは結節群で有意に高くなっていた。超音波所見では、結節群では結節数、結節サイズともに初回スクリーニング時よりも有意に増加していたのに対し、対照群では結節の発生は認められなかった。細胞診で悪性と診断されたのは結節群の3例のみであり、対照群との有意差は認められなかった(p=0.082)。しかし、結節群の9例が細胞診で悪性の可能性が否定できない判定困難であり、悪性と併せるとその頻度は対照群より有意に高くなっていた(p<0.001)。 チェルノブイリ周辺地区において、事故当時0-10歳であり、事故後の超音波診断で甲状腺結節を指摘された対象者では、がん発生が高頻度に見られることが示唆された。この様な対象者では、甲状腺結節はがんのハイリスク因子である可能性があり、今後さらに詳細な症例の検討が必要である。
著者関連情報
© 2011 日本放射線影響学会
前の記事 次の記事
feedback
Top