抄録
様々なDNA損傷の中で、放射線照射によるDNA二重鎖切断は細胞や生物にとって最も致命的であると考えられている。DNA2重鎖切断は主に相同組換えと非相同末端結合で修復される。このNHEJ系での修復ではDNA-LigaseIVと複合体を構成するXRCC4が最も重要な役割を担っていると考えている。我々の研究室では以前に、放射線照射によってXRCC4はDNA-PKにリン酸化されることを示したが、このリン酸化の生物学的な特徴は明らかにされていない。我々は中性子線とガンマ線を含む原子炉放射線を用いた実験を行い、これらを明らかにしようと試みた。
細胞はマウスのリンパ腫L5178Y細胞由来でXRCC4遺伝子を欠損しているM10細胞にpCMVvectorを導入したM10-CMV、そしてさらに正常ヒトXRCC4のcDNAを導入したM10-XRCC4を用いた。照射は近畿大学原子炉、X線発生装置、コバルト照射施設で行った。実験はM10細胞の6チオグアニン耐性を指標としてHPRT遺伝子の変異を検出することで行った。方法として、軟寒天培地に播種したそれぞれの細胞の発生頻度を求めることから求めた。M10-CMV細胞では突然変異頻度の上昇は見られず、またM10-XRCC4細胞では突然変異頻度はおよそ6から30倍程度の上昇傾向を示した。このことから、中性子線照射によるDNA損傷は修復が難しいため、この頻度が上昇する可能性が示唆された。さらに現在はHPRT遺伝子に変異の入ったクローンを、それぞれに構造解析を行うことで損傷の特徴を明らかにするよう解析を行っている。