抄録
イオンビームは飛程末端近くで多くのエネルギーを付与する。飛程末端に近いイオンビームの変異誘発効果については、特に植物ではほとんど知見がない。植物におけるイオンビーム変異誘発効果に関する知見を深めるため、飛程末端に近い炭素イオン(平均LET: 425 keV/μm)と平均LET 113 keV/μmの炭素イオンの変異誘発効果を比較した。シロイヌナズナのGL1遺伝子座に生じた突然変異の特徴を大規模欠失変異に注目して解析した。野生型Col株とgl1-1変異株を交配して得た種子を材料として用い、Colとgl1-1の塩基配列を区別できる多型マーカーを用いて欠失変異を検出した。無毛変異セクターの発生頻度は2種類の炭素イオン間で有意な差はなかったが、大規模欠失(> ~30 kb)の頻度は飛程末端に近い炭素イオンで6倍上昇した。ネオンイオン(352 keV/μm)においても、113 keV/μmの炭素イオンに比べて大規模欠失の頻度が6.4倍上昇した。これらの結果は、植物においてLETの増大に伴って大規模欠失の割合が増加することを示唆する。