抄録
テロメア配列を含むRNA分子(TERRA)の発現に対するX線及び紫外線の影響
徐子牛、白石一乗、児玉靖司
大阪府立大学大学院理学系研究科生物科学専攻放射線生物学研究室
【緒言】
最近、テロメアがRNAに転写されていることが発見された。このRNAはTERRA(telomeric repeat-containing RNA)とよばれている。TERRAの転写はほぼすべてのテロメアで生じており、また、複数の生物種間で保存された現象であることが報告されているが、その生物学的機能については不明である。本研究は、放射線がTERRA発現にどのような影響を与えるのかを明らかにするために、X線、及び紫外線照射した細胞について、継時的にTERRA発現の変化を調べた。
【材料と方法】
細胞は、マウス不死化線維芽細胞(CB/CB 09)を用いた。TERRA発現は、FITCでラベルしたテロメアに相補的なペプチド核酸 (PNA)プローブを用いたテロメアRNA FISH法で検出した。TERRA発現に対する放射線の影響を調べるために、X線、及び紫外線をCB/CB 09細胞に照射し、直後、6、12、及び24時間培養後に、細胞当たりのTERRAフォーカス数の分布を調べた。
【結果と考察】
はじめに、CB/CB 09細胞のX線、及び紫外線による生存率を解析し、10%生存率を与える線量が、X線は5 Gy、紫外線は13 J/m2であることを確認した。TERRA発現は、細胞当たりのTERRAフォーカス数によって定量化した。未照射細胞での平均フォーカス数は、5.1であった。10%生存率を与える5 GyのX線を照射後、継時的にTERRA発現を解析したところ、直後、6、12、及び24時間後の平均フォーカス数は、4.9、4.3、4.4、及び5.9であり、ほとんど変化が見られないことがわかった。一方、13 J/m2の紫外線照射後の解析では、直後、6、12、及び24時間後の平均フォーカス数は、5.0、6.8、8.6、及び7.0であり、TERRAフォーカス数が紫外線照射後に有意に増加することがわかった。紫外線照射によるTERRA発現の増加は予想外の結果であり、その理由について現在解析中である。