抄録
小型魚メダカは、ヒトとほぼ同等の内部臓器を供えた優れたモデル実験動物である。ゲノム解読が完了しており、また、細胞レベルの空間分解能を伴った生体イメージング技術を駆使できるという他の脊椎動物には見られない特質を備えている。また、卵として体外で胚発生が進むことから、胚操作が極めて容易である。色素欠損系統も存在する事から、より内部の変化が観察しやすいため応用性も極めて高い。
遺伝子の機能解析において、遺伝子変異体が極めて貴重な情報源である事は、これまでの生物学の歴史からも明白である。更に、ゲノム生物学時代の到来は遺伝子の取得を容易にし、得られた遺伝子の生体における機能を解析するといった逆遺伝学的手法の必要性を増大させてきた。逆遺伝学には、標的とする遺伝子の変異体を自由に作成する、遺伝子ノックアウトの手法が必須である。しかしながら、メダカを含む小型魚ではノックアウトの手法は確立されていなかった。我々はTILLING (Targeting Induced Local Lesion IN Genome)法によりメダカにおいて逆遺伝学的に変異体を作製する方法を確立するために5700のF1個体からなるメダカTILLINGライブラリーを作製した。(第50回大会で発表)TILLING法で最も重要なステップはいかにして効率よく導入変異を検出してくるかである。これまで、Direct sequencing法、CelI法(変異部位で形成されるヘテロ二本鎖を酵素(CelI)による切断の有無で検出する)、高感度融解曲線(High Resolution Melting (HRM) )法(変異部位で形成されるヘテロ二本鎖の融解温度の違いを検出する)などが用いられてきた。これらの方法は有用である一方、一回のスクリーニングで得られる情報量に限りがある。そこで、我々はよりハイスループットなスクリーニング法の確立を目指して、次世代シークエンサーを用いたGiga-Base Sequencing (GBS)法でスクリーニングを試みた。まず、GBSによりどのくらい効率よく変異を検出できるのか、テストランを行った。テストランでは、これまでにHRM法によるスクリーニングで検出された36個の変異を、ポジティブコントロールとして使用した。その結果、ポジティブコントロールが95%以上の検出効率で検出され、そのS/N比は2.45であった。この結果よりGBS法によるスクリーニングが、従来のスクリーニング法と変わらず有用であることが示された。GBS法の最も重要なポイントはハイスループットであることである。計算上、1ランで100以上のエキソンを一度にスクリーニングすることが可能である。現在GBS法により、損傷応答に関与する遺伝子群の変異体スクリーニングを行っている。