抄録
バイスタンダー効果は、照射細胞から放出される分泌因子の作用により、または細胞間でギャップジャンクションが形成されている場合にはそこでシグナルが伝達されることにより、そのシグナルが作用した細胞で影響が引き起こされる現象である。生物学的意義を考えると、放射線照射によるストレスを細胞が感知し、それを周りの細胞へ伝えるという、細胞集団全体でシグナル伝達により応答機構を活性化しているように思われる。我々のこれまでの研究から、X線とUVによりバイスタンダー効果が引き起こされることがわかった。バイスタンダー効果がDNA二重鎖切断、細胞死を誘発するレベルはわずかであり、それよりも細胞内の環境変化に及ぼす非致死的影響が大きいことがわかった。一方、ビタミンCは抗酸化剤として幅広い作用が知られている。ビタミンCが細胞内でどのように抗酸化作用を発揮しているのか興味が持たれるが、我々が解析した結果、DNA二重鎖切断のような極めて重篤な傷に対しては効果が弱く、突然変異や染色体異数化のような非致死的影響には顕著な効果を示すことがわかった。また、ビタミンCはバイスタンダー効果を顕著に抑制することが複数の実験結果から明らかとなった。ミトコンドリアは細胞内酸化度の調節に重要であり、その膜電位は細胞内のエネルギー産生に関係する。ビタミンCは、ミトコンドリア膜電位を低下させることがわかった。さらに、バイスタンダー反応によるミトコンドリアへの影響(膜電位やROS生成)もビタミンC処理で抑制されることがわかった。我々は、バイスタンダー応答を含めた放射線応答機構において、ミトコンドリアを介したストレス応答機構が極めて重要であると考えている。その機構において、ビタミンCが如何なる作用を示すのかについて詳細を解明したいと考えている。