抄録
福島原発事故前の日本人のリスク観、特に原子力や放射線に関する認識を、2006年-2007年に複数種行った認知調査から分析した。(1)全国成人男女対象の訪問面接調査:有効回答は男性610名、女性747名で、性別、年齢、子供の有無や年齢、職業、学歴、居住地等の質問も行い、属性別群ごとの集計を行った。(2)全国成人男女対象のWEB調査:科学技術や社会活動に関するリスク30項目を危ないと思う順にランキングしてもらう調査で、638人からの回答を得た。(3)看護師(女性)170名対象の用紙記入形式調査:科学的知見や子供の有無による放射線リスク認知の差異を分析した。
(1)の調査では、「地球温暖化」「大気汚染」「オゾン層破壊」に不安を感じるといった回答が多く、「自然放射線」「人工放射線」を不安と感じるという回答は10%に満たなかった。「原子力テロ・核兵器」「放射性廃棄物」「原子力施設」に恐怖感を抱く人が多い一方、放射線の「線量」に関する知識が不十分、あるいは「健康障害」のイメージが漠然としている人が多数存在する実態が明らかになった。属性別では、40-50代、こどものいる女性、高学歴者、学生、関東・近畿在住者などが、比較的放射線に関心の高い層である。(2)の調査では、公衆のリスク認知が性別、年齢、職業によらず似ており、「ピストル」「原子力」「喫煙」が大変危険と判断されていることが示された。過去に行った同様の調査結果と比較すると、過去25年間に、リスク認知の属性による差異が小さくなる傾向が見られた。(3)の調査からは、看護師は、放射線の量と健康影響といった科学的知見を分析し、受容できるものとできないものを理性的に区別した上で、こどものいる看護師は食品照射を、いない女性は放射線による不妊を心配していることが明らかになった。
今後、東電福島第一原発事故により生じたであろう日本人のリスク観の変化について検証する。