抄録
【目的】蛋白質はL-α-アミノ酸で構成されているが、加齢や、紫外線、放射線照射によりアスパラギン酸(Asp)残基が部位特異的にD-β-体へと異性化し、これが白内障やアルツハイマー病の発症と関連することが示唆されている。一方、これらの疾患部位ではAGE化(advanced glycation end products;蛋白質中のアミノ酸残基に糖鎖が非酵素的に付加し生成される化合物郡)も報告されている。しかし、D- β -AspとAGE化が同一の蛋白質で生じているかどうかは不明であった。そこで本研究では、紫外線照射後の皮膚組織においてD-β-Asp化している蛋白質とAGE化の一つであるリジン残基のカルボキシメチル化(CML)との局在の共通性を調べ、その蛋白質を同定することを試みた。
【方法】UVB照射(200 mJ/cm2)72時間後のマウスの皮膚ならびに非曝露部位の皮膚組織に対して抗D-β-Asp抗体と抗CML抗体を用いて免疫組織染色を行った。次いで、両抗体に対して陽性反応の見られたマウス皮膚組織から蛋白質を抽出し、二次元電気泳動、Westernblotを行い、両抗体に陽性のスポットをゲル内酵素消化し、質量分析によりこれら蛋白質の同定を行った。
【結果と考察】UVB照射したマウスの表皮ではD-β-Asp化とAGE化が共に同一蛋白質で生じており、これらの蛋白質はkeratin-1, keratin-6B, keratin-10, keratin-14であることが判明した。また真皮ではUVB照射、未照射ともにコラーゲンの特定部位にD-β-Asp化のみが生じ、AGE化は生じていないことが明らかとなった。これらの結果より、表皮では紫外線照射後短期間でD-β-Asp化とAGE化が生じるが、真皮コラーゲン中では別の原因でD-β-Asp化が生じていると考えられた。