抄録
重イオンマイクロビームを用いて任意の標的細胞に対して任意の個数の粒子(線量)を照射することによって、従来のランダムな照射方法で余儀なくされていた「平均値としての照射効果」の解析から脱却し、個々の細胞に対する真の放射線生物学的効果を追求することが可能となる。また、重イオンマイクロビームを用いることによって、標的細胞におけるイオンのヒット位置と細胞応答の関係を正確に把握でき、高LET重イオンによる生物効果を理解する上で極めて重要なイオンのトラック構造との関連を追求することが可能となる。さらに、重イオンマイクロビームは、生物組織中の特定の組織、器官、細胞を外科手術的に摘出する代わりに、体外からマイクロビームを照射して局部的に殺滅あるいは不活性化し、それによって生体に引き起こされる影響を解析するためのラジオマイクロサージャリ技術として、植物の生理機能やカイコの発生・分化過程の研究にも利用されてきた。本講演では、日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)で開発した重イオンマイクロビーム照射装置の概要と、生物機能解析研究への応用例を紹介する。