抄録
放射線被ばくにより、学習障害など神経系に影響をもたらされることが示唆されている。私たちは、これまで神経系に対する放射線被ばくの影響を明らかにすることを目的として、神経系のモデル生物として知られる線虫(C. elegans)を用いて、嗅覚順応、化学走性学習、及び運動と学習行動との関係について、行動とその変化に対する低LET放射線(γ線)の影響を調べてきた。これまでに、全身被ばくした線虫の化学走性学習行動が、特定の条件下においてのみ影響を受けることを明らかにしたが、線虫のどの部位における放射線被ばくが、線虫の化学走性学習行動の変化を誘導するかは未だ明らかでない。一方、マイクロビーム照射技術は、細胞あるいは組織レベルでの直接的な放射線の影響を調べるための有効なツールである。そこで、我々は、炭素イオン(18.3 MeV/u, LET = 119 keV/µm)マイクロビームを用いて、線虫の化学走性学習に対する直接的な放射線の影響部位を明らかにすることを目的として研究を開始した。線虫でのマイクロビーム照射実験を実施するために、シリコン製小動物用マイクロデバイスを用いることで、線虫の動きをマイクロビーム照射時においてのみ抑制する方法を導入した。また、神経機能を麻痺させる麻酔下でのマイクロビーム照射実験を実施し、神経活動の状態の違いによる結果の比較を行った。本発表では、この実験系による炭素イオンマイクロビーム照射実験の成果について報告する。