抄録
放射線被ばくが免疫システムに長期にわたって影響を及ぼすことが知られているが、放射線による免疫学的変化と疾患発生の関連性についてはほとんど分かっていない。原爆被爆者では、依然として、ナイーブT細胞集団の減少、IL-2産生の低下、TCRレパトアの縮小、機能の弱いメモリーT細胞の割合の増加といった免疫系に対する放射線被ばくの有意な影響が認められる。同様なT細胞性免疫の衰弱は通常の老化の過程で現れる。また、このようなT細胞免疫の変化は炎症に関わっていると考えられる。実際、IL-6、TNF-α、CRP のような炎症性タンパクの血液中のレベルは加齢で増加することが知られているが、原爆被爆者においても被ばく線量に依存した上昇がみられる。年齢ならびに放射線量とともに認められるTh1 およびTh2細胞の割合の増加は、原爆被爆者における炎症性サイトカイン産生の亢進に関わっている可能性がある。興味深いことに、血漿中の炎症性サイトカインレベルとナイーブCD4 T細胞の比率との間に有意な逆の関係がみとめられ、原爆被爆者にみられる炎症指標の亢進の一部はT細胞老化によるものと示唆される。本ワークショップでは、放射線で誘導されるT細胞老化が炎症反応の活性化をもたらし、原爆被爆者における加齢関連の炎症性疾患の発生にある程度関係している可能性を提示したい。