抄録
近年、心血管疾患をはじめとする非がんリスクの晩発影響が低線量放射線の被ばくによって上昇することが、原爆被ばく者のデータを疫学的に解析した結果などから示唆されており、これを規制に取り込むことが検討されている。しかし、発がんリスク同様、高線量・高線量率で得たリスクモデルを低線率・低線量率でのリスクの推定にそのまま外挿することの是非については議論のあるところである。これらの非がん疾患発症においては炎症の寄与が大きいことが知られている。我々は、低線量率ガンマ線を長期間にわたり連続照射した時の生体影響について検討し、糖尿病やリューマチ疾患モデルにおいて病態の進行が遅延する傾向があることを観察してきた。またアロジェニックな腫瘍を移植することにより炎症を惹起したマウスを17日間にわたりガンマ線照射室内で飼育し、免疫機能と脾臓細胞の遺伝子 の発現についてメタアナリシスを用いて評価したところ、マクロファージの活性に関与するIL-1α、CD80、iNOS等の因子の発現が減少し、炎症応答が減弱している可能性が示唆された。一方、p21, mdm2などp53の標的遺伝子の発現は有意に減少しており、低線量率ガンマ線の連続照射においては高線量率照射とは異なる生物影響が現れることが示唆された。さらにコンカナバリンAによる炎症惹起についても検討したところ有意な抑制が観察され、炎症反応に依存することが知られるルイス肺ガンの転移に対しても低線量率ガンマ線の連続照射は有意な抑制効果を示した。以上の結果は、低線量・低線量率では、高線量・高線量率とは異なる放射線生物応答を示すことを示唆しており、非がんリスクの評価においても線量率効果を十分に考慮する必要があると考えている。