日本放射線影響学会大会講演要旨集
日本放射線影響学会第54回大会
セッションID: W10-2
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ワークショップ10. 低酸素バイオロジー研究に基づく放射線生物学・放射線腫瘍学の新展開
DNA修復関連遺伝子の低酸素応答性転写抑制機構
*谷本 圭司中村 秀明河本 健加藤 幸夫檜山 英三檜山 桂子西山 正彦森田 明典細井 義夫
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抄録
低酸素下がん細胞がDNA損傷を引き起こす放射線治療や抗がん剤治療に抵抗性を示すことは広く知られている。低酸素ストレス刺激により,ある種のDNA修復遺伝子発現が低下することが示唆されているが,放射線や抗がん剤による DNA損傷応答に与える影響には不明な点がある。我々は,低酸素環境下におけるDNA修復遺伝子群の発現変動,およびDNA損傷応答について,低酸素応答性転写因子HIF-1およびその標的遺伝子で転写抑制因子であるDEC機能に注目して検討しているので報告する。 口腔扁平上皮がん細胞HSC-2を用いた網羅的遺伝子発現解析により,24時間低酸素刺激により通常酸素分圧下の2/3以下に発現低下した22のDNA修復遺伝子のうち,BRCA1,RAD51,MBD4,MRE11A,MLH1,MSH2の低酸素下での転写調節機構を解析した。その結果,HIF-1下流で働く転写因子DECはこれらDNA修復遺伝子のプロモーター活性を抑制し,そのプロモーター抑制機構は,HDAC活性依存的,DNA結合能依存的,および蛋白間相互作用依存的な幾つかの様式が存在する複雑な機構であることが明らかとなった。低酸素の化学的影響を受けないように損傷刺激時には通常酸素環境下に戻す様にして低酸素前処理を行ったがん細胞の損傷応答を,γH2AXを指標に観察すると,低酸素前処理はDNA損傷応答および修復をDEC2依存的に遅らせることが明らかとなった。一方,低酸素前処理を行ったがん細胞のガンマ線各1,5,10Gyの感受性を測定,比較した。細低酸素前処理により放射線感受性は概ね有意に低下したが,5Gy照射でもっとも大きな差異が生じていた。siRNAによるDEC2抑制によりその感受性が増加し,低酸素前処理による放射線感受性低下機構にDECを介した機構が関与していることが示唆された。 HIF-1-DECを介したDNA損傷・応答機構の詳細を明らかにし,放射線治療効果の増強のみならず,新しい防護法の開発への応用が期待された。
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© 2011 日本放射線影響学会
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