抄録
放射線特有の生物影響として、酸素効果は古くから知られており、それは放射線照射直前ならびに照射中に照射試料が酸素存在下にあることで、酸素が放射線の増感剤として作用することにより、無酸素環境下との異なる生物応答を導く。本発表では、照射後の酸素の存在に注目し、放射線照射後の生物影響(応答)に酸素がどのような効果をもたらすかを調べる為、まず低酸素環境下(< 0.2 mmHg)でのX線ならびに高LET放射線である炭素線(~80 keV/µm)をCHO細胞に照射し、定電圧電気泳動法により細胞内DNA損傷を定量した。続いて照射した細胞を大気環境下と低酸素環境下で培養(37℃)し、その後DNA損傷を定量し、DNA損傷修復における酸素の役割について調べた。
X線における低酸素下照射-大気下修復の修復動態は、低酸素下照射-低酸素下修復に比べると明らかにDNA損傷修復の早さ、修復量の多さが判明した。例えば遅い修復コンポーネントでは酸素の存在により、1.5倍ほど修復半減期が早いことがわかった。また大気環境下で5時間DNA損傷修復を行うと、残存DNA損傷量は全損傷量の5%程度まで減少するが、低酸素環境下では20%程度のDNA損傷が未修復であった。しかし高LET放射線である炭素線誘発DNA損傷においては、修復5時間後においても修復時の酸素の有無の違いによるDNA損傷修復動態はかわらなかった。
これらの結果から、酸素は照射時だけではなく照射後の生物応答にも影響することがわかり、特にその影響は高LET放射線よりもX線誘発DNA損傷に対して顕著であった。