抄録
固形腫瘍内に存在する低酸素領域は放射線療法の抵抗因子として最もよく知られており、現在まで拡散性の限界に伴う慢性低酸素を克服するための治療的戦略が数多く研究されてきた。しかし近年、慢性低酸素とは異なり、分もしくは時間単位で増減する間欠的低酸素の存在が着目されるようになり、この間欠的な低酸素暴露が腫瘍形質の悪性化を引き起こすことが明らかとなってきた。従って、腫瘍内低酸素環境をある一時点で切り取るのではなく、連続的な変化として評価する事が重要となってくるが、動態の複雑さ、検出の難しさから、その存在が腫瘍にどの様な影響を与えるかについて現在のところ統一見解は得られていない。
本発表ではまず、近年開発されたパルス照射型電子スピン共鳴法(パルスEPR法)による酸素イメージングについて紹介する。パルスEPR法は、酸素感受性の常磁性ラジカル溶液をマウスに投与し、そのラジカルプローブ周辺部の酸素分圧を絶対測定できる方法である。我々は十分な解像度を保ったままで、スキャン速度を高速化する事に成功し、腫瘍内の分単位で変動する酸素分圧マッピングを実現した。これにより、間欠的低酸素の存在と程度を評価することが可能となった。この方法を用い、二種類の腫瘍を比較することで間欠的低酸素と血管密度、成熟性との関連性について検討した結果を報告する。
次に、間欠的低酸素の有する生物学的作用を明らかにする目的で、がん細胞の放射線抵抗性に与える影響に着目した。使用した細胞はラットグリオーマ細胞であり、実際の脳内移植腫瘍モデルにおいて、間欠的低酸素が存在する事を二種類の低酸素プローブを用いた多重染色にて証明した。この細胞を用いて、1時間の低酸素と30分の再酸素化を繰り返す人工的な間欠的低酸素環境に置かれた時の細胞の放射線感受性について検討したところ、同時間持続的に低酸素曝露された細胞に比べて有意な生残率の上昇が観察された。本発表では、この間欠的低酸素による放射線応答性制御機構も含め、これまで分かってきたことについて報告したい。