抄録
タンパク質リン酸化酵素ATMは電離放射線などでDNA二重鎖切断(DSBs)損傷が発生すると直ちに活性化され、様々な因子をリン酸化することにより、細胞周期チェックポイントを制御する。ATMを機能的に欠損した遺伝病であるAtaxia-Telangiectasia(A-T)では、放射線高感受性、細胞周期チェックポイント異常、染色体不安定という放射線誘導細胞応答に関連した異常を示すだけでなく、進行性小脳萎縮、眼球運動失調(ataxia oculomotor apraxia: AOA)など脳神経系の異常も示すことが知られている。それ故、ATMは脳神経系において新たな機能をもつことが考えられたことから、A-Tと同様に進行性小脳萎縮、眼球運動失調を示すAOA3患者細胞において、ATM関連細胞応答について検討を行った。
ATMはDSBs損傷発生時だけでなく、細胞内に酸化ストレスを発生させるH2O2処理でも活性化することが最近明らかとされたので、AOA3細胞で検討すると、H2O2処理に伴うATMの自己リン酸化、ATMによる基質のリン酸化、細胞周期チェックポイントの誘導が低下していた。また、AOA3細胞では、H2O2処理に伴うATM活性化自体も著しく低下していることが、in vitro kinase assayで明らかとなった。放射線照射に伴うATM経路の活性化についてもAOA3細胞では同様に異常が見られた。さらにAOA3細胞では内在性酸化ストレスの上昇がみられた。この酸化ストレスの上昇がATMの活性を低下させている可能性が考えられたので、正常細胞をH2O2で前処理した場合を検討すると、ATM経路の活性化は抑制されていた。これらの結果から、AOA3細胞では内在性酸化ストレスの上昇によってATMの活性化が抑制され、A-T症候群様の症状を呈していることが示唆された。