農村経済研究
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2019年度 第55回宮城大会報告特集 津波被災地域の新たな農業の展開とその担い手
津波被災地域の一集落一法人化による農業再生
-井土生産組合の取り組みを事例に-
鈴木 保則唐 冠琰
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2020 年 38 巻 1 号 p. 24-32

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抄録

本稿は,井土生産組合を対象に,津波被災地の農業再生を目指した農業法人の取り組みを整理した.井土生産組合は,井土地区の被災農家15 戸が地域農業の再建とコミュニティの再生を目指して設立した一集落一農場型農事組合法人である.そこでは,経営理念・経営ビジョンに示されているように,地域農業の継続と効率に配慮した上で,被災農地の集積を通じて,地域復興のシンボル的存在となることを目的としている.井土生産組合の特徴的な取り組みは,栽培戦略と販売戦略に見られる.栽培戦略としては,乾田直播などの先端技術を積極的に取り入れた稲作の省力化とそれによって生じた余剰労働力の活用による園芸作物の周年栽培が特徴的である.販売戦略としては,「井土ねぎ」のブランド化を軸としたマーケティング戦略と販路拡大に向けたG-GAP 認証取得が特筆すべき点である.このほかに,市民との交流を図る「井土ねぎ祭り」や,元住民の懐かしい顔ぶれが揃う「収穫感謝祭」の「場」づくり,井土地区再生の情報発信としての視察研修の受け入れなど,井土生産組合が震災で崩壊した地域コミュニティの再生に注力する地域貢献活動も重要な特徴の一つである.このような井土生産組合の取り組みは,津波被災地の農業モデルであることはもちろん,労働力の高齢化と担い手不足が深刻化する地域での土地利用型農業のあり方や, 地域コミュニティの再生を考える上でも多くの重要な示唆を与えていると考えられる.

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© 2020 東北農業経済学会
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