2021 年 39 巻 1 号 p. 80-87
本稿は,農業経営の規模と収益性の関係を明らかにするために,農業経営統計調査の大規模な個票デ ータを用いたパイロット・スタディとして,アドバンテージ・マトリクスによる経営分析を試みた.分析結 果より,以下3 点が明らかになった.第一に,土地利用型農業と酪農,養豚経営を除き,経営規模の拡大が 収益性に貢献するという規模の経済性は確認できなかった.農業の収益性を高めるために,一人あたりの経 営規模を拡大させるという戦略が考えられがちであるが,そのような戦略を必ずしも支持する結果にならな かった.第二に,資産額の少ないときの総資本利益率のばらつきが大きく,農業の収益性を決める要因とし て初期の農業投資が重要であること明らかになった.また,農業投資のやり方には競争上の戦略が多数ある ことが示唆された.第三に,経営耕地面積の拡大する中で,収益性を落とす,いわゆる「死の谷」に陥って いる経営体が多数確認された.これらの結果から,農業の収益性を高める方策を検討するには,農業投資に 着目する必要があり,経営資産の形成過程とその活用方法について明らかにする必要がある.