抄録
ある国において島嶼地域は,島嶼であるという事由により自治権や特別地位が付与されるべきか。ヨーロッパにある複数の島嶼地域を検証し,非対称性多元主義により大陸地域にはない自治権や特別地位が付与されている事例が多いことを明らかにする。自治権や特別地位は国家との関係で形成付与されるものであるが,ヨーロッパ島嶼地域の場合,EUを含む関係となる。この付与がEU統合への選択権(島嶼地域の脆弱な経済的利益を維持する目的からのEU市場への不参加),もしくはEU統合理念である補完性(地方分権)と社会経済的結束(地域間格差是正)から導かれる超周縁地域に対する特別選択の享受,と関わるからである。後者のケースにおいて従来地理学・生態学的概念であった「島嶼性」がEU,各国,島嶼地域レベルにおいて「制度化」されつつある。ヨーロッパ島嶼地域の自治権は,非対称性多元主義論や多極共存型民主主義論が主要対象とするエスニシティや文化的少数派というよりも,経済社会的少数派としての「島嶼性」とも関わる制度概念である。