抄録
まずアタヤル語群において「幼い動物」,「子犬」を表す同源形式を比較し,祖形を再建する。その過程において「幼い動物」と「新しい」の間には関連性が見られることを示す。次にアタヤル語群において「子豚」を表す同源形式を比較しアタヤル語群祖語を*beru と再建する。その上で,この形式とオーストロネシア祖語の*baqəRu「新しい,独身男性」が同源関係にあることを提案する。オーストロネシア祖形における当該形式の意味は,本来は「子豚」であったが「新しい,独身男性」へと移行したことが,アタヤル語群の類例を基に推察される。また,オーストロネシア諸語における同源形式を再検討することで,祖形が*baqəRu ではなく*beRu と再建されうることを示す。