2023 年 2023 巻 FIN-030 号 p. 01-05
金融市場における統計則の一つに価格インパクトの非線形性 (nonlinear price impact) と呼ばれる統計則がある。価格インパクトの非線形性とは、あるトレーダーが執行した注文に起因する価格変動のパスが凸型の非線形関数に従うという現象である。現在、この統計則に関して、市場・取引者・戦略依存せず、ある相似な非線形関数に従うという意味で普遍的 (universal) であるという学説と戦略や市場に依存して関数形が決まると主張する相異なる2種類の学説が有力視されている。このような相異なる2つの学説間で決着がいまだに着いていない理由は、価格インパクトに関する実証分析が、ある特定の取引主体に注目した限定しか行われておらず、包括的な分析(全数調査)が行われていないからだ。そこで我々は、東京証券取引所における価格インパクトに関して全数調査を行い、市場・取引者・戦略依存性について調査した。本講演では、その全数調査の結果とその結果から示唆される金融市場のモデルが持つと望ましいとされる統計則について議論する。