2025 年 2025 巻 FIN-035 号 p. 09-16
決済期間の短縮は決済リスク削減につながるため、国内の個人投資家にとっては短いほど望ましい。一方で、T+0のように極端に短縮すると、海外の機関投資家は事務処理が追いつかず取引が困難になる場合がある。このように国内の個人投資家と海外の機関投資家のニーズは相反するため、インド市場では同一銘柄を扱い、決済期間のみが異なる2つの市場を設ける方式が採用された。しかし、決済期間が異なる市場間で裁定取引を行う場合、取引パターンによっては株式の借入が必要となるため、貸株市場が十分でなければ取引が成立しない。特に、有名なインデックス採用銘柄は貸株供給が多く問題ないが、非採用銘柄では取引機会が制約され、市場環境や流動性に偏りが生じる可能性がある。本研究では、この非採用銘柄に相当する状況を想定し、人工市場を用いて決済期間が異なる2市場を株式借入コストに基づき構築し、コスト増加が市場流動性や投資家行動に与える影響を検証した。その結果、株式借入が必要な裁定取引パターンの取引回数が減少すると、全体の裁定取引回数と市場流動性も低下し、その影響で市場環境の偏りが解消されないことが確認された。