人工知能学会第二種研究会資料
Online ISSN : 2436-5556
2025 巻, FIN-035 号
第35回金融情報学研究会
選択された号の論文の25件中1~25を表示しています
  • 則武 誉人, 八木 勲, 水田 孝信
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 01-08
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は,取引単位が異なる先物市場間の裁定取引において,ミニ先物の小口化が与える影響を分析する.現実の市場データに基づく実証分析が困難であるという課題を踏まえ,本研究ではマルチエージェント型の人工市場モデルを構築し,取引単位のみが異なる2市場における裁定エージェントの行動をシミュレートした.最良気配の売り買いの価格が逆転する状況(価格要件)だけでなく,実際に利益が得られる状況(利益要件)が満たされたときにのみ裁定取引が実行されるという条件を課し,取引単位$Q_M$の小口化が及ぼす効果を検証した.その結果,$Q_M$が小さくなるとミニ先物側の最良気配の数量が不十分となり,価格要件を満たしたにも関わらず裁定エージェントが発注を見送るケースの増加が確認された.一方で,小口化によってミニ先物のビッドアスクスプレッドが縮小し,利益要件を満たすことによる裁定取引も相対的に増加した.最終的に,裁定取引の発注割合は$Q_M$の小口化とともに緩やかに増加し,一定水準で収束することが示された.本研究は,取引単位の差異が市場間の裁定取引に与える影響を数量面から明らかにした点において,市場の制度設計や流動性の分析に有用な示唆を与えるものである.

  • 福家 緋莉, 水田 孝信, 八木 勲
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 09-16
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
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    決済期間の短縮は決済リスク削減につながるため、国内の個人投資家にとっては短いほど望ましい。一方で、T+0のように極端に短縮すると、海外の機関投資家は事務処理が追いつかず取引が困難になる場合がある。このように国内の個人投資家と海外の機関投資家のニーズは相反するため、インド市場では同一銘柄を扱い、決済期間のみが異なる2つの市場を設ける方式が採用された。しかし、決済期間が異なる市場間で裁定取引を行う場合、取引パターンによっては株式の借入が必要となるため、貸株市場が十分でなければ取引が成立しない。特に、有名なインデックス採用銘柄は貸株供給が多く問題ないが、非採用銘柄では取引機会が制約され、市場環境や流動性に偏りが生じる可能性がある。本研究では、この非採用銘柄に相当する状況を想定し、人工市場を用いて決済期間が異なる2市場を株式借入コストに基づき構築し、コスト増加が市場流動性や投資家行動に与える影響を検証した。その結果、株式借入が必要な裁定取引パターンの取引回数が減少すると、全体の裁定取引回数と市場流動性も低下し、その影響で市場環境の偏りが解消されないことが確認された。

  • 早瀬 竜希, 水田 孝信, 八木 勲
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 17-21
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
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    取引所は急激な価格変動を抑えるための規制を発動することがある.規制の中には価格が急変動した際に一定期間注文を受け付けないサーキットブレーカーが存在する.すでに人工市場を用いてサーキットブレーカーの性能を調査した研究は存在するが,サーキットブレーカーモデルがサーキットブレーカーを発動するための過去の価格の参照期間と停止期間が同じ値として実装されていた.そこで本研究ではサーキットブレーカーモデルの過去の価格の参照期間と停止期間を切り分け,その性能を人工市場シミュレーションを用いて調査した.

  • 北浦 崇弘, 稲垣 祐一郎, 松浦 大将, 越山 祐資, 西野 洋平, 家富 洋
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 22-33
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
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    産業界にとって、自社が属する産業セクターの需要予測は経営安定化に重要である。予測の精緻化には先行指標の存在が必須条件だが、セクターレベルにおける先行・遅行関係を体系的に定量化した研究は限られている。本研究では米国の主要産業セクターとマクロ経済指標を対象に、複素ヒルベルト主成分分析(CHPCA)と多因子分析(MFA)を組み合わせ、集団的変動と位相関係を分析した。その結果、主要モードは高い安定性を示すと共に、NBERの景気後退期間と整合的に変動し、累積強度は実質GDPの下落率と近い関係を持つことが確認された。また、雇用や在庫関連指標に合理的な先行・遅行の順序が観察され、セクターレベルでの景気変動の調整メカニズムを定量的に把握できることが示された。本手法は、景気後退規模の定量化や産業間波及の理解に有効な分析基盤となる。

  • 水門 善之
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 34-41
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
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    本研究では、多資産のネットワーク分析に基づいてビットコインの価格変動特性を検証し、その独立性の度合いを明らかにしたとともに、ポートフォリオ分散効果を実証的に検証した。リターンデータを用いた相関行列に基づく多資産ネットワークを構築した結果、ビットコインは独立的な位置に存在し、主要資産に比べて中心性指標(次数中心性、固有ベクトル中心性、媒介中心性、近接中心性)が顕著に低いことを確認した。これは、ビットコインの価格形成が半減期や規制動向等の固有要因に強く依存し、マクロ経済要因との連動性が限定的であることを示唆している。さらに、モンテカルロ・シミュレーションを用いた円建てのポートフォリオ分析の結果、ビットコインの組み入れはシャープレシオおよびソルティノレシオを改善し、リスク調整後リターンを高める効果が確認された。以上の結果は、ビットコインの分散効果を支持するとともに、多資産価格のダイナミクスを捉える手法としてネットワーク分析の有用性を示すものである。

  • 佐藤 優輝, 金澤 輝代士
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 42-43
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
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    金融経済学の分野では、株価の予測は難しい一方、成行注文流の予測は容易に行うことができると知られている。一般に、買い(売り)注文は、株価を上昇(下落)に寄与する。そのため、成行注文流が予測可能であることと株価の予測は困難であることは、一見矛盾するように思われる。そこで、本研究ではこのパラドックスを解決するために、成行注文流の予測可能性の起源である注文分割行動と価格インパクトの経験則を組み合わせた理論モデルを開発した。その結果、成行注文流の予測可能と株価の予測不可能性が共存するメカニズムを明らかにした。本講演では、その理論モデルの詳細とその厳密解に基づいて議論する。

  • 藤原 俊太, 佐藤 優輝, 金澤 輝代士
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 44-45
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
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    金融市場での重要な経験則として、価格インパクトの平方根則がある。価格インパクトの平方根則とは、注文により引き起こされる価格変化が注文量の平方根に比例することを指す。この平方根則では、べき指数がδ≃0.5であることが多くの市場で経験的に確認されている。そのため、平方根則はあらゆる金融市場に共通する普遍的な性質と考えられている。しかし、平方根則のべき指数δではなく、比例係数cについては十分に解明されていない。比例係数cは、市場の取引コストと関連があるとされているため、その定量的な解明は重要であると考えられている。また、平方根則の研究で経験的に行われている統計解析の手法も、理論的な根拠がなく、妥当性が明らかでない。そこで本発表では、近年提唱された新たなモデルを元に、平方根則の研究で行われる統計解析の手法を精査した。具体的には、市場の取引コストを表すとされる比例係数cとその無次元化の関係に対して、定量的な結果を与えた。

  • 高野 海斗
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 46-53
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    ファンドマネージャーは,決算短信やアナリストレポート,ニュース記事など,多様な金融テキストを日々読み解きながら分析を行い,投資哲学に則ってファンドの運用を行っている.したがって,より高度な分析を定量的に行うためには,定性情報であるテキスト情報を数値情報に変換することが重要である.数値情報に変換することができれば,従来の統計手法や分析モデルを使用することが可能であり,過去時点と現時点を比較することも可能になる.この定量化には様々な手法が存在するが,その中でも金融分野ではセンチメント分析が重要視されている.本研究では,独自に開発したセンチメントモデルを用いて,いくつかの金融テキストを分析し,金融テキストごとの特徴を確認する.そして,それらの特徴を踏まえてポートフォリオを構築し,評価を行うことで,テキスト情報の有用性を示す.

  • 竹下 蒼空, 高野 海斗, 仁科 慧, 酒井 浩之
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 54-61
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    近年,高配当株に注目が集まっており,国内でも2017年から日経平均高配当株50指数のような指数が公表されている.配当政策(将来的な配当の方針)は各企業で決めることが可能であるが,配当が高いほど良いとは限らず,企業のさらなる成長や株主還元などを考慮しながら慎重に決める必要がある.適切な配当政策の答えは出ておらず,配当政策に関する研究が盛んに行われている.配当政策の分析を行う上でデータは非常に重要である.具体的な配当の状況は財務データとして比較的容易に取得が可能であり分析ができるものの,配当政策に関しては決算説明会での口頭での説明や有価証券報告書に記載されるため,その多くが非財務情報である.したがって,配当政策の分析のためには専門家が有価証券報告書等のテキスト情報を確認して人手でラベルを紐づける必要があり,精緻な分析を行うためのデータを大量に作成することが難しく,分析対象の企業や時期を拡張することが難しい.一方で,先行研究で従来行われてきた単純なキーワードベースの分析ではラベル付けが粗く,結果の妥当性に疑問が残る.そこで本研究では,BERTやLLMを使用して,質の高い配当政策データの構築手法を提案する.さらに,構築した配当政策データの正確性を評価し,構築したデータがどのような分析に活用できるかを示す.

  • 白井 祐典, 市川 佳彦, 中川 慧
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 62-67
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    企業の利益予測は、経営者の意思決定を支援するのみならず、投資家やアナリストなど外部ステークホルダーにとっても重要なタスクである。利益は、企業の経営成績を把握するための最も基本的な指標であり、将来の業績や株価動向を見通すうえで中心的な役割を果たす。従来は、財務諸表の数値データを用いた定量的なモデルやアナリスト予測を通じて利益を予測する手法が提案されてきた。しかし、これらの手法には、財務諸表外の情報や経営者の定性的な見通しといった文脈情報を十分に活用できないという限界がある。そのため人間のアナリストが行うような推論過程を模倣できる大規模言語モデル(LLMs)が、財務諸表を用いた利益予測において高い精度を持つという研究結果も報告されている。一方で、LLMsがどのような企業に対して正確な予測を行いやすいのかといった予測の異質性、あるいはLLMsが学習に使用していない将来の未知データ(アウトオブサンプル)に対する汎化性能といった点は、十分に検証されていない。そこで本研究では、日本株式市場の利益予測のベンチマークデータを用いて、LLMsによる企業の利益予測の結果の分析を行い、どのような企業がLLMsによって正確に予測されやすいか考察する。さらに、LLMsが学習に使用していない時点かつベンチマーク公開後の直近データを用いたアウトオブサンプル評価を通じて、LLMsの利益予測の汎化性能を評価する。

  • 伊藤 央峻
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 68-74
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は,適時開示テキストの埋め込み表現がイベントスタディにおける短期株価反応の予測に有用かを検証する.TDnetから2020年4月〜2025年4月の約69万件の開示データを取得し,日本語特化の事前学習済みモデルにより開示タイトルの768次元埋め込みを作成した.主成分分析(PCA)とk-meansによる可視化では,公開項目コードと整合する解釈可能な構造と,四半期・年次イベントに対応した季節性が確認された.予測タスクでは,イベント日から3営業日までの累積異常リターン(CAR)を用い,分布下位5%の判別(二値分類)を目的として,価格時系列特徴+業種を用いたベースラインにタイトル埋め込みを加えたLightGBMを時系列分割で学習・評価した.その結果,テキスト特徴の追加によりF1が0.235→0.265,PR-AUCが0.164→0.192へ改善し,TDnet開示タイトルの埋め込みが短期下落リスク検出に追加的な予測情報を提供することを示した.

  • 田中 麻由梨, 土井 惟成
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 75-82
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では、日本の不動産投資信託(J-REIT)が、有価証券報告書を通じて公開する、表形式及びテキスト形式で構成される物件情報を、大規模言語モデルを用いたアンサンブル手法を用いて構造化し、データセットを構築する手法を提案する。従来、有価証券報告書における物件情報は、HTML形式で表とテキストが混在しており、機械的な構造化は困難であった。そこで本手法では、複数の大規模言語モデルを用いたFew-shotプロンプティングにより、高精度な物件情報の構造化を実現した。大規模言語モデルは、学習データやモデルの特性の違いにより強みと弱みが異なることから、それぞれの出力を補完的に統合することで、構造化の精度向上を図った。また、大規模言語モデルが表中のテキスト内容を改変して出力していないか、事後的に検知する仕組みも導入し、手動による訂正作業の効率化を目指した。これらを通じて、手動による訂正作業の負荷を抑えたJ-REIT物件情報データセットの構築方法を提案する。

  • 小林 司, 山本 竜也, 成末 義哲, 森川 博之
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 83-87
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    トランザクションレンディングは,財務諸表ではなく口座取引情報に基づいて審査される点で,従来型融資と異なる.本稿では,法人の属性および取引情報を用いて,借入企業のデフォルト傾向を分析した.分析の結果,設立3年未満の法人は,それ以上の年数を経た法人に比べて有意に低いデフォルト率を示した.さらに,代表者が事業経験を有する法人は相対的に低い傾向にあり,教育,デザイン,エンターテインメントといった業種でも良好な結果が確認された.一方,顧客集中度が高い法人では,事業年数にかかわらずデフォルト率が上昇する傾向がみられた.これらの知見は,法人の属性や取引情報に基づく指標が,従来の財務情報に依存しない信用リスクモデルの改善に有効であることを示唆している.

  • 星野 知也
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 88-95
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    株式市場における構造変化の検知は、投資戦略やリスク管理において重要な課題である。本研究では、Fiedlerベクトルと情報エントロピーを用いた株式ネットワークの構造変化検知手法を提案する。株式市場を銘柄間の相関に基づくネットワークとして表現し、景気循環や市場レジームの変化に伴うネットワーク構造の再編を捉えることを目的とする。Fiedlerベクトルはグラフラプラシアンの第二固有ベクトルであり、潜在的なクラスタ構造を示す。また、これに対応する第二固有値はネットワーク結合の強さを特徴づける。この特性を株式ネットワークに適用し、銘柄のネットワーク上の配置から得られる構造的特徴を情報エントロピーで定量化し、その時系列変動から構造変化を検知する枠組みを構築する。米国株式市場を対象とした分析から、検知された変化点と株価指数の転換点との対応を確認することで、本手法の有効性を検証する。

  • 石原 龍太
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 96-101
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,国内地方債に対する「暗黙の政府保証」について、その投資家からの信頼度を定量的に推計する手法を提案する.具体的には,2006年4月から2024年3月までの国内地方債の発行スプレッドと発行団体の実質公債比率のデータを用い,遺伝的アルゴリズムの手法により投資家の信頼度を推計する.分析の結果,提案手法によって推計した信頼度は,過去の地方債市場の状況と整合性があることが確認された.また,推計した信頼度を地方債スプレッド推計モデルの説明変数に組み入れることで,推計モデルの地方債スプレッドに対する説明力が向上することが明らかになった.本研究の提案手法には,投資家や引受金融機関が地方債のリスクをより適切に評価するための重要な知見を提供するとともに,政策当局者が市場からの地方財政運営に対する信認度を把握し,円滑な地方財政運営を進める一助となることが期待される.

  • 市川 佳彦, 平野 友貴, 居村 裕平, 中條 悠介, 桑本 奈緒, 堤 鴻志郎, 中川 慧
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 102-107
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    スマートフォンは生活必需品となっているものの、半導体価格の高騰や円安の影響などで新品価格は上昇傾向にあり、消費者の負担が増大している。結果、価格面で有力な選択肢として中古スマートフォン市場の利用が拡大し、国内外で重要な二次流通市場を形成するに至っている。こうした中古スマートフォン市場の拡大を背景に、中古スマートフォンの価格形成要因を分析することは、買取企業の適切な価格設定や消費者の購入意思決定などの一助となり、さらには循環型経済の推進に資する重要な課題である。先行研究では、販売サービス形態間の価格維持の差異などについて一定の知見が蓄積されている。しかしながら、価格形成に重要な要因である機種ブランドや、スマートフォンの輸入依存度の高い日本市場において重要なドル円為替レートと中古価格の関係については分析されていない。そこで本研究は、2018年から2024年にわたる機種ブランド別の月次買取価格データに基づき、日本の中古スマートフォン市場における価格形成要因を分析する。分析の結果、価格を決定する最も支配的な要因は発売からの経過時間であり、機種ブランドではApple社製品は減価が緩やかであることが確認できた。次に、為替レートの影響を評価するため、価格と為替レートの月次変化量を用いた時系列分析を実施した。その結果、為替の短期的な変動は価格変動に直接的な影響を与えない一方で、iPhone端末については過去1~2か月の変動が約3か月後の価格変動に対して弱い正の相関を持つことが確認できた。最後にXGBoostを使った研究を行い、経過月数や為替の影響を確認した他、容量が非線形な影響を与えていることがわかった。

  • 中川 慧, 加藤 真大, 今村 光良
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 108-116
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
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    資産配分において,各資産の価格変動を横断的に説明するリスクファクターに基づくマルチファクターモデルの構築が広く行われている.特にマルチアセット市場におけるリスクファクターは,マクロ経済指標との関連性に基づいて解釈されることが多く,これらはマクロファクターと呼ばれる.こうしたリスクファクターを統計的に抽出する手法としては,主成分分析(PCA)が用いられている.しかしながら,PCAをローリングウィンドウで推定する場合,時点ごとに得られる固有ベクトル(エクスポージャー)が大きく変動するため,経済的解釈の一貫性や分析の安定性が損なわれるという課題がある.本研究では,この課題を解決するために,ユーザが事前に想定する経済的意味を持つ主成分(事前エクスポージャー情報)を利用し,それを正則化項として導入した部分空間正則化付きPCAを提案する.理論的には,標準的なPCAとの整合性,Ledoit and WolfのLinearShrinkage推定量との対応関係,およびベイズ的解釈に基づく事後分布最大化解との同値性を明らかにした.実証分析では,マルチアセット市場データを用い,提案手法の有効性を検証した結果,正則化を導入することで推定されたエクスポージャーの時間的一貫性が大幅に改善された.一方で,リスク分解の結果においては,説明力が従来のPCAと同程度に保たれており,安定性の向上と説明力の維持が両立することが示された.

  • 加藤 真大, 中川 慧
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 117-124
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
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    現代の財務諸表監査は,リスクアプローチのもと,財務諸表に重要な虚偽表示がないことの合理的な保証を目的としている.その目的を達成するため,監査は原則として,母集団(勘定科目明細等)の一部をサンプルし,そのサンプルを検証する試査により実施される.試査の実務では,一度のサンプリングによって健全性の判定ができなければ,健全性の判断ができるまでサンプリングを続けるという慣行がある.しかし,この手続は経験則に依存しており,統計学的に洗練されておらず,誤判定確率に関する数学的保証を欠いている可能性がある.本稿では,このような試査における慣行を逐次検定問題として定式化し,統計学的に保証のある手続に精緻化する.具体的には,従来の試査の手続を超幾何分布に従うサンプリングのもとでの逐次検定として定式化し,財務諸表の健全性に関する帰無仮説と対立仮説に対して,監査人が設定した有意水準を満たす仮説検定の方法を設計する.

  • 西村 征馬
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 125-129
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
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    The application of machine learning method to securitiesreturn prediction has been actively researched. However, areview of previous studies reveals that the learning periodvaries greatly depending on the report. Also, in practice,determining the learning period is often a challenge. Inthis study, we propose a new method to solve this problemby using an ensemble of models that differ only in theirtraining windows. To demonstrate the effectiveness of theproposed method, we compared test loss and stock priceprediction capabilities of machine learning models withvarious learning periods and their ensemble models.

  • 田代 雄介, 鈴木 彰人, 山口 流星, 亀田 希夕, 宮澤 朋也
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 130-134
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
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    近年、大規模言語モデルや時系列基盤モデルなど、様々なデータ種別に対する機械学習モデルが発展してきている。本研究では、言語モデルと時系列モデルを組み合わせたマルチモーダルな機械学習モデルを考え、決算短信+株価データを用いた業績修正予測を行った結果について報告する。

  • 辻 晶弘
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 135-141
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
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    企業の決算と株価リターンの関係を説明するうえで、業績サプライズは最も重要な概念の一つである。しかし、定量化するにはある程度単純化せざるをえず、EPSの会社予想と実績の差やアナリストコンセンサスとの差分などの数値情報のみが用いられてきた。一方で、株価リターンはそれらの情報に加え、EarningsCallによる期待感の増減や、将来の業績修正の確度といった不確実な情報も織り込んで変化しているため、標準的に採用されているサプライズの測定手法では株価を説明するには不十分であった。 本稿では、生成AIを用いてEarnings Callの相対評価を繰り返し、Glicko ratingに基づくスコアに換算する方法による定量化を提案する。この方法で作成されたスコアが、従来広く用いられるStandardized Unexpected Earnings (SUE) に対して、決算後までの株価リターンの説明力で優位性を持つかについて検証を実施した。

  • 久保 健治, 中川 慧
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 142-148
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究は、深層学習を用いた効率的なマーケットメイキング手法を提案する。従来のマーケットメイキング研究では、確率過程に基づくアプローチが主流であったが、深層学習を導入することで、より柔軟かつ高精度な予測が可能となることが期待される。しかし、価格変動がティックサイズに比べて大きいボラタイルな市場においては、複数の指値を同時に考慮する必要があり、行動空間が膨大化するため、学習が困難となるという課題が存在する。そこで本研究では、指値数量の配分を連続確率分布を用いて緩和する手法を導入することで、行動空間の次元を削減し、深層学習型のマーケットメイキングモデルの学習を可能にする。さらに、複数銘柄を対象としたマーケットメイキングを組み込むことで、動的ポートフォリオ最適化を実現できることを示す。合成データとETF市場のデータを用いて、提案手法の有効性を確認し、あわせて緩和による誤差の影響についても評価した。

  • 山村 真太郎, 渡邉 聡, 國見 昌哉, 斉藤 和広, 二国 徹郎
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 149-156
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    QAOA(Quantum Approximate OptimizationAlgorithm)は、NISQ(Noisy Intermediate-ScaleQuantum)デバイス向けに提案された量子アルゴリズムであり、組合せ最適化問題に対する有望な手法として金融分野への応用も期待されている。本研究では、金融工学における主要課題の一つであるポートフォリオ最適化問題にQAOAを適用し、その性能を検証した。本研究では、保有・非保有・空売りの3状態を考慮したポートフォリオ最適化問題に対してQAOA を実装し、異なるミキサー演算子を用いた場合の性能を比較した。具体的には、Standard Mixerおよび複数のXY Mixer(XY Ring,XY ParityRing,XY Full,QAMPA)を用いたQAOA を実装し、ドイツ株式指数(DAX 30)に基づく実データを用いて、資産数が5および8の場合のシミュレーションを行った。また、depolarizing channelに基づくノイズを導入し,現実的な環境下での挙動も検証した。その結果、ノイズのない環境ではXY Mixerが優位性を示したが,ノイズ環境下ではQAOAの反復回数やノイズ強度に応じてミキサーを適切に選択する必要があることが明らかになった。

  • 種村 賢飛, 久保 健治, 中川 慧
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 157-163
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    テキスト情報に基づく決算サプライズは, 数値指標に基づくサプライズよりも株価に強い影響を与える可能性が示唆されている.本研究では, 日本株の決算短信から数値サプライズ指数(SUE)と,大規模言語モデル(LLM)を用いて構築したテキストサプライズ指数(LES)を構築して,決算発表後の株価がサプライズの方向に継続して動く現象(Post-Earnings AnnouncementDrift; PEAD)を検証した. SUEおよびLESの単体では, PEADの一貫した残存は確認できなかった.一方で, 両指標の組合せにおいて,とりわけSUEが高くLESが低い局面でサプライズの符号と整合するドリフトが観測され,限定的な条件下でPEADが現れることを確認した. さらに, LLMsが捉えている文脈情報は,数値情報や辞書ベースの単語情報とは独立に決算後のリターン変動へ情報をもたらすことが示唆された.

  • 梅原 武志, 武田 英明
    原稿種別: 研究会資料
    2025 年2025 巻FIN-035 号 p. 164-171
    発行日: 2025/10/08
    公開日: 2025/10/08
    研究報告書・技術報告書 フリー

    本研究では,有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記述内容について,内容の分類および重要語の抽出を行い,企業ごと,業界ごとの取組内容の差異について分析した.2023年3月期以降,企業のサステナビリティ情報の開示が義務化されたことで,有価証券報告書のデータ抽出による企業のサステナビリティに関する取組内容の収集は容易となった.しかしながら,有価証券報告書の記述は十分に構造化されていないため,複数企業にまたがる横断的な分析を行うためには,事前にサステナビリティに関する記述内容を抽出してデータの構造化をする必要がある。サステナビリティ開示のフレームワークとしては、例えばGRIスタンダード、SASBスタンダード、TCFD提言などの複数の基準がある.企業の取組内容を対応づけるうえで,有価証券報告書中の特定の取組に関する記述がこれらのフレームワークのどの項目に該当するのか分類することは重要であるが,自由記述のテキストの中から正確な分類を当てはめることは困難である.そこで本研究では,テキストマイニングの技術を用いて,有価証券報告書中のサステナビリティに関する取組内容の記載を抽出し,企業ごとの取組内容を分類・可視化するとともに,業種ごとの取組内容の差異に関して分析した.また,分類ごとに重要語を抽出し,SDGオントロジーで定義された概念との対応付けを行うことにより,さまざまな課題に対して企業がどのような具体的な取組を行っているのか体系化を試みた.

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