抄録
セルロース・アセテートを素材とするNAC型中空糸ダイアライザーの使用患者のうち, 約170名に強膜炎が発生した. 1名を除き視力障害は完全に治癒したが, 眼の疼痛・発赤は平均約2週間持続した. この強膜炎の原因物質を究明して次の結果を得た. ダイアライザーの個々の構成物質およびダイアライザー抽出物を, 家兎とイヌの静脈内に投与して眼症状の発現を検討したところ, ダイアライザー抽出物にのみ強膜炎の発生を認めた. この抽出物をセファデックスで分画し, 各分画につき眼症状の発現を検討すると, Fr. 5およびFr. 6にのみ強膜炎が発生した. Fr. 5およびFr. 6をIR, UV, NMRで分析した結果, いずれもcellulose acetate oligomerおよびurethane oligomerを含むことがわかった. そこでcellulose acetate oligomerとウレタン原料を反応させて新たに被疑物質を合成し, この抽出物を分画したところ, ダイアライザー抽出物と同様のFr. 5およびFr. 6を得, これらの分画を動物に投与することによって眼症状の発現を見た. 以上の結果から, 強膜炎の原因物質はcellulose acetate oligomerとurethane oligomerから構成され, ダイアライザー組立時にcellulose acetate oiigomerとウレタン材料とが反応して発生したものと推定される.