抄録
新しい縫合材料、単糸合成吸収性縫合糸polydioxanon (PDS)を用いて小口径血智吻合を行い、縫合糸の役割や吻合部位に及ぼす影響についてぐわしく検討した。雑犬30頭の腹部大動脈に自家外頸静脈グラフトを一端をPDS糸、他端は対照としてpolypropylene (PP)糸を用いて置換移植した。PDS糸はflexibilityがあり単糸構造の為組織通過時の組織損傷も少なぐ、この為初期炎症反応も最少であった。糸が吸収されると糸のしめつけによる組織の圧迫虚血が消失するのでこの部分の硝子様変性が起こらず、吻合部は非常に平滑で良好な形状となった。PDS糸の抗張力はpolyglycolic acid糸と比べて緩徐に低下し、2ヵ月後でも10数%残存するので組織治癒の遅延がある様な場合でも安全に使用できると思われた。臨床では大腿動脈以下の血行再建6例9吻合に吸収性縫合糸を使用したが、いずれも良好に経過している。PDSは小口径血行再建で自家血管を使用する場合に限り現在では最良の縫合材料であると考えられた。