抄録
生体内で分解され、吸収されつつ、ヘパリンを徐放出することで抗癒着性を発揮する、柔軟なコラーゲン製の癒着防止膜の開発を行った。その素材としてはヒト羊膜を用い、細胞成分を脱落させたあと、柔軟性、親水性および細胞親和性を賦与するため、親水性エポキシ化合物で架橋した。膜の吸収速度は架橋率を変えることでそれを制御した。ヘパリンの徐放出は、抗血栓性人工血管の作成に用いている、プロタミンを介してヘパリンをイオン結合させる方法を採用した。作成した膜は半透明で柔軟性があり、取り扱いが容易であった。動物実験として、成犬大腸漿膜を5cm平方にわたって剥離し、ここに作成した膜を縫着したところ、完全に癒着を阻止することができたとともに、植え込み後4ヶ月で膜はすでに吸収されており、代って天然の抗癒着性を有する漿膜細胞が創面を覆っており、創は永久的な抗癒着性を獲得することとなった。膜が体内で吸収されることより、本癒着防止膜は脳や肺、腱といった広い領域での応用が期待される。