1990 年 19 巻 1 号 p. 235-238
人工心臓の抗血栓性を検討する目的で体重52-90kgの仔牛5頭を用い, ポリウレタン製空気駆動式トーマス型人工心臓で完全置換実験を行ない, 術前後の血液凝固能の動態を凝血学的分子マーカーを中心に検討し以下の成績を得た。1)術前検査では血小板数がヒトと比較して異常に多いこと以外特に異常を認めなかった。2)術直後は手術侵襲の影響で血小板数, ATIIIが著減し, フィブリノペプタイドA(FPA), Bβ15-42(Bβ), FDPが著増してhypercoagulable stateを示したが, 術後約1週間で回復した。3)術後1週以降は凝血学的に極めて安定しており, トーマス型人工心臓の抗血栓性の優秀性を示した。4)重症感染症合併症例では血小板数, ATIIIの著減, FPA, Bβ, FDPの著増とhypercoagulable stateを示し多臓器障害で死亡した。剖検では多発血栓が観察され感染に対する制御と同時にhypercoagulabilityに対する対策の重要性が示唆された。