抄録
1982年3月から1992年9月までの10年7カ月間に, 教室で経験したHancock弁32例(H群)とLiotta弁28例(L群)のPrimary Tissue Failure(以下, PTF)計60例を対象に, PTFの発症様式を臨床的に検討し, 摘出弁の肉眼的所見から弁破壊様式の差異について知見を得たので報告した。前回弁置換から再弁置換までの期間は, H群125±42, L群84±27カ月で, PTFに対する再弁置換症例からみたHancock弁の耐久性は, Liotta弁に比し有意(p<0.05)に優れていた。超音波ドプラ法によるH群の僧帽弁口面積(MVA)は1.61±0.58cm2で, L群2.16±0.66cm2に比し有意に狭窄特性を示し, L群では27例(96.4%)が閉鎖不全の病態であった。摘出弁の観察から, 亀裂は交連部に好発し, 穿孔は弁葉のいずれにも発生した。弁葉逸脱による僧帽弁逆流は, H群2例, L群4例で, MVA 1.1cm2以下の7例(うちH弁6例)は, 交連部あるいは弁葉に及ぶ石灰化が僧帽弁狭窄の主因であった。