1995 年 24 巻 2 号 p. 430-433
我々は機械弁による三尖弁置換術を行なった症例で、人工弁の二葉のうち一葉が10年間閉鎖位の状態で経過している稀な症例を経験した。患者は52歳女性、1984年6月各29mm SJM弁によりMVR、TVRを施行した。術後3ケ月目の弁透視にて三尖弁の一葉閉鎖位固定を認めたため再手術を考慮したが患者の同意が得られずまた明らかな心不全徴候を認めなかったため経過観察とした。トロンボテスト(T. T)値は8~10%、溶血は認めていない。弁透視では三尖弁位後方の弁葉は正常に作動していたが前方の弁葉は閉鎖位で完全に固定されていた。心エコー所見では三尖弁々口面積2.5cm2、trivial TR、右心拡大は認めていない。肺シンチグラムで両肺野の欠損像は認めなかった。本症例の人工弁一葉閉鎖位固定の原因として弁装着手技、術後の不適切な抗凝血薬療法、サイズを含めた人工弁自体の問題等が考えられる。弁口面積は約57%に減少したが血行動態に大きな影響を及ぼすことなく経過している。