抄録
現在使用可能な小口径人工血管は、長期の開存率の点で自家静脈に劣っている。新たな人工血管の開発の為に、我々は生体血管に近い構造を持つ管状物を作成する試みを行ったので報告する。イヌの外頸静脈から内皮細胞、平滑筋細胞を採取して細胞培養を行った後、ヒト臍帯静脈グラフトに移植した。内皮細胞は回転法にてグラフト内腔面に移植し、平滑筋細胞は注射器でグラフト壁内に注入して、その組織変化を2週間経時的に観察した。移植された内皮細胞は、最初は重層されていたが、3日目より単層構造を示し、2週間同様構造を維持した。一方平滑筋細胞はグラフトの壁内に細胞塊として移植され、3日目以降は同心円状の広がりを見せたが部分的であった。この結果よりグラフトに移植された内皮細胞は静置培養で生体に近い構造を取り得るが、平滑筋細胞は静置培養では期待したような広がりを見せず、細胞移植の方法や培養法に改良を要すると考えられた。