抄録
従来、ゲルを用いた薬物放出の制御は、ゲル中の薬物の拡散によっていた。これに対し、グラフト鎖を有するゲルを用い、網目の凝集変化による水の押し出しを同期させた薬物の放出を起こす、新しい温度応答性薬物放出制御の実現を目的として研究を行った。ゲルは網目の協同拡散により膨潤状態から収縮状態に変化するため、本来、温度変化に対する収縮変化はサイズに依存し、ゆっくりとしたものであった。これに対し、自由末端を有するポリN-イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)のグラフト鎖がPIPAAm網目中に導入されたグラフト型のゲルは、32℃以上への段階的な温度上昇に対し素早く収縮変化した。これはグラフト鎖が温度変化に対して素早く凝集変化し、凝集したグラフト鎖間に強い疎水性相互作用が働く結果、ゲルは水を素早く外部へと押し出したためと考えられた。このゲルの収縮変化に伴う水の押し出しの相異により、単なる三次元網目の通常型ゲルに対し、グラフト型ゲルからの薬物放出挙動は大きく異なることが明らかにされた。すなわち、通常型のゲルが収縮時に表面スキン層を形成して薬物拡散を停止するのに対し、グラフト型ゲルはその特徴的な水の押し出しにより、温度変化で薬物をパルス的に放出させることができた。このグラフト型の分子構築に基づく温度応答性の薬物放出制御の特性を通常型のゲルと比較しながら議論し、グラフトゲルによって新しく実現されたミクロポンプとしての温度応答性ゲルの機能を詳細に検討した。