芸術学論集
Online ISSN : 2435-7227
淀井敏夫作品《渚のエウローペ》から見る造形の変遷
宍戸 美咲
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2020 年 1 巻 p. 33-40

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抄録

本論文は淀井敏夫(1911〜2005)の1961年から1994年にわたり制作された《渚のエウローペ》作品に焦点を当て、造形の変遷を明らかにすることで、それらの作品から得られた造形観が、その後の作品にどのように発展していったのかを論じたものである。

《渚のエウローペ》は淀井が石膏直付けを始めた1955年以降に作られたシリーズ作品であり、この作品の造形について論考することは、その後の淀井の造形観にどのような影響があったのかを解明する糸口になると考えた。

長い年月の中で制作された《渚のエウローペ》は徐々にエウローペの跳ね上げた足の高さ、身を低くする牡牛の横幅の表現が加わり、構成に変化が加わっていく。これらの縦に伸ばす空間の使用や、重なり合うモチーフから生まれる奥行きの表現は、その後の淀井の彫刻作品にも度々登場している。これらのことから《渚のエウローペ》の制作の中で、淀井が作品の構成に対する造形観を深めていったことが明らかになった。

更に、《渚のエウローペ》シリーズの考察から、同じモチーフの使用は単なる焼き直しではなく、常に淀井の制作に対する厳格な造形への取り組みを示していることが明らかになった。繰り返される制作という行為の中で、淀井は時間をかけて自身の中でモチーフを観察し、イメージの深化を図り、モチーフに己の感情共感を織り交ぜ、造形へと昇華させていると考えた。自然を愛する心を持ち、作者の中に深い内省が存在することで、絶えず厳格に制作に取り組んできた淀井の作品には雄大なダイナミズムの表出を感じることができると推察した。

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