芸術学論集
Online ISSN : 2435-7227
1 巻
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 長田 年弘
    2020 年 1 巻 p. 1
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/01/06
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  • ─後補図75番を例として─
    日髙 衣紅
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 1 巻 p. 3-12
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/01/06
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    本稿は、中国最古の図入りの御籤といわれる『天竺霊籤』の原本を想定し、欠損や後補版の図を再現するための方法を考察したものである。この『天竺霊籤』は南宋時代に刊行されたものと考えられている(以後、南宋版と呼ぶ)。現存するのは86枚で、その中には文字や図の部分的な欠損、後補版が含まれていると考えられている。南宋版と同じ漢詩を伴う御籤は後代に継承され、中国では明代(以後、明版と呼ぶ)、日本では17世紀以降の御籤本が現存する。日本には図も含めて、様々な種類の『天竺霊籤』系統の御籤本が刊行され、100籤が揃っていることから、本来の南宋版も100籤100図から構成されていたと考えられている。本稿では日本の御籤の中で最も中国の御籤を継承する日本の元禄8年(1695)『観音籤註解』(以下、元禄版と呼ぶ)と、南宋版や明版の現存図を手掛かりに、南宋版本来の図を想定し、欠損頁及び後補版の図を補う方法を提示することを目的とする。そのためにまず、元禄版が中国の御籤をどの程度継承するものなのか、テキストと図から検証を行った。そして、南宋版の現存86籤の図の構成については、“モジュール”という観点から考察を行った。これらの検証の結果を基に、元禄版、南宋版の現存図を用いた再現の方法を提示し、南宋版の中で後補版と考えられている75番を例として図の再現を試みた。今回試作によって出来上がった再現図は完全に元の南宋版と一致するとは言い切れないが、失われた一籤の図の大意を示す一つの方法であることを提示した。

  • ─近世作品に見る描画技法と保存のための処置─
    池田 真理子
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 1 巻 p. 13-22
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/01/06
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    ヴェラムは羊皮紙の一種で、主に紙の普及以前に用いられた古典的な支持体である。現代植物画における欧米での利用増加に伴い、国内でも注目度が高まっている。しかしながら、その使用法に注目した先行研究は乏しく、作家は制作上の問題に直面してきた。そこで本稿では、制作者としての立場から水彩絵具での植物画制作におけるヴェラムの特性を考察し、保存性に配慮した実践的な使用法、並びに有用な描画技法を提示した。

    研究方法として、ヴェラムに描かれた近世ヨーロッパの植物画を対象に、経年劣化、保存修復方法、描画技法の調査を行なった。併せて、現代作品におけるヴェラムの使用法、現代の羊皮紙製造方法と製品の調査を行なった。

    その結果、ヴェラムの品質が劣化に関係していること、歪みや波打ちは湿度変化に影響を受けることが確認された。これらの問題点に対して制作者に可能な処置は、厚さや色みの均一な仔牛のヴェラムの選択、保存環境の維持、補助的な支持体への固定である。自作によって具体的な問題点への対処法を検証した。

    また時代の変遷によるヴェラム製品の質の変化、描画に使用される面の反転、それに伴う描画技法の変化が確認された。紙が主要な媒体となった現代において、最盛期のヴェラムへの描画技法は作品制作の手がかりとなる。よって自作品を通して、近世作品に見られる描画技法の有用性を検証した。

  • 「アートたんけん隊」の事例分析を通して
    廖 曦彤
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 1 巻 p. 23-32
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/01/06
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    日本における造形ワークショップが発展する中、実践の継続的展開を担う若い世代の実践者の育成が課題とされている。

    本研究は、造形ワークショップの企画から実施および振り返りまで一連の過程に対して実践者がもつ意識の構造を明らかにすることを目的とした。

    造形ワークショップとして実施された「アートたんけん隊」2018年度活動を担う実践者4名に対する半構造化インタビューを実施・分析した結果、実践者がもつ意識には【実践者としての実践経験とその省察】、【造形ワークショップの状況と活動効果】、【今後の発展と追求】という三つの側面が含まれることが明かとなった。

    総合的考察の結果、経験学習理論の視点からみて、本事例の実践者が造形ワークショップの実践を通して、「具体的経験」と「省察的観察」の段階を踏んでいることが明らかとなった。そして、この二段階を踏んだ上でさらに「抽象的概念化」と「能動的実験」の段階を如何に経験させ、学習サイクルをどのように効果的に促せるのかが実践者のワークショップ経験と学習効果を高めるための課題として示唆された。

  • 宍戸 美咲
    2020 年 1 巻 p. 33-40
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/01/06
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    本論文は淀井敏夫(1911〜2005)の1961年から1994年にわたり制作された《渚のエウローペ》作品に焦点を当て、造形の変遷を明らかにすることで、それらの作品から得られた造形観が、その後の作品にどのように発展していったのかを論じたものである。

    《渚のエウローペ》は淀井が石膏直付けを始めた1955年以降に作られたシリーズ作品であり、この作品の造形について論考することは、その後の淀井の造形観にどのような影響があったのかを解明する糸口になると考えた。

    長い年月の中で制作された《渚のエウローペ》は徐々にエウローペの跳ね上げた足の高さ、身を低くする牡牛の横幅の表現が加わり、構成に変化が加わっていく。これらの縦に伸ばす空間の使用や、重なり合うモチーフから生まれる奥行きの表現は、その後の淀井の彫刻作品にも度々登場している。これらのことから《渚のエウローペ》の制作の中で、淀井が作品の構成に対する造形観を深めていったことが明らかになった。

    更に、《渚のエウローペ》シリーズの考察から、同じモチーフの使用は単なる焼き直しではなく、常に淀井の制作に対する厳格な造形への取り組みを示していることが明らかになった。繰り返される制作という行為の中で、淀井は時間をかけて自身の中でモチーフを観察し、イメージの深化を図り、モチーフに己の感情共感を織り交ぜ、造形へと昇華させていると考えた。自然を愛する心を持ち、作者の中に深い内省が存在することで、絶えず厳格に制作に取り組んできた淀井の作品には雄大なダイナミズムの表出を感じることができると推察した。

  • 上浦 佑太
    2020 年 1 巻 p. 41-50
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/01/06
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    平面状の媒体で展開される表現には、数理的秩序に則って複数の図形を配した構造を基盤とするものがある。本研究の目的は、このような数理的秩序による構造を造形表現や造形教育において有効に活用するために留意すべき点を示すことである。本研究では、とくに数理的秩序による構造を構成する図形どうしの位置関係に着目して平面表現の事例を取り上げ、構造の構成と視覚効果の関係について考察する。

    本研究では構造を構成する図形どうしの位置関係に着目して以下3種類のタイプに分けた。

    1)図形どうしを離して並べた構造

    2)図形どうしが接するように並べた構造

    3)図形どうしが重なるように並べた構造

    事例研究の対象としては、平面表現において数理的秩序の活用が多く見られるようになった1930年代から現代までの絵画やポスターデザインなどを取り上げた。

    研究の結果、以下のことが分かった。

    図形どうしを離して並べた構造を活用した表現では、構造を構成する図形一つひとつに施されている操作の差異や離れた要素の間に生ずる特殊な見え方を強調するために、図形の並べ方や間隔を十分に検討するのが有効である。図形どうしが接するように並べた構造を活用した表現では、隣り合う形の融合やシステマチックな平面充填により生まれるリズムを強調するために、構造に対して配置する図形の色や形を十分に検討するのが有効である。図形どうしが重なるように並べた構造を活用した表現では、構造の成り立ちそのものがもつ数理的な美の強調や、形の合成による予期せぬ形の生成のために、図形の重なりにより生じる接点や交点、線の連続性などに着目しつつ構造を検討するのが有効である。

  • -「飛翔」から「浮遊」への展開について
    鹿山 卓耶
    原稿種別: 研究論文
    2020 年 1 巻 p. 51-60
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/01/06
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    本論文は、塑造によるモニュメントを数多く制作した彫刻家本郷新の芸術活動の中で、注目される機会の少なかった木彫の取り組みに対し、その体系的な意義について問い直すことを目的としている。本郷の木彫については、これまで代表的な作品の《哭》を中心に語られてきたが、本論文では、木彫作品に類する塑造作品との制作過程における関連性について考察することで、本郷の木彫に対する意識に関する一面の掘り起こしを試みている。

    本考察においては、横たわるポーズの人体作品に着目し、小品裸婦像の《裸婦》、木彫作品の《浮標》、本郷の代表的な無辜の民シリーズの《無辜の民 メコン河Ⅰ》、これに続く《無辜の民 メコン河Ⅱ》を採り上げている。作品集等の資料においては、それぞれの作品は異なるカテゴリーに属する作品として認識されている。

    調査の中で発見した、作品集に未掲載の作品《飛翔する裸婦 1》と類似する各作品との関係について考察したところ、いずれの作品も《飛翔する裸婦 1》を介して制作された可能性が高いことが明らかとなった。考察の結果として、今回採り上げた類似する4点の作品は、《飛翔する裸婦 1》で求められた「空中への展開」が共通していると考えられる。

    横たわるポーズの人体像における「空中への展開」をめぐる一連の取り組みには、塑造と木彫の往来によって得られる効果を浮遊表現に昇華させる試みがあった。木彫を用いたことにより、塑造で成し得なかった浮遊表現が《浮標》として完成された。

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