芸術学論集
Online ISSN : 2435-7227
ピエトロ・アンニゴーニのテンペラ・グラッサ技法についての一考察
イタリアでの調査をもとに
星 美加
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2023 年 4 巻 p. 11-20

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抄録

イタリア・フィレンツェの画家ピエトロ・アンニゴーニ(Pietro Annigoni 1910-1988)の用いたテンペラ・グラッサ註1 の技法は、彼の作品カタログや生涯を記した伝記、弟子による書籍にその処方が掲載されている。しかしながら、下地制作から完成までの具体的な制作工程がわかるアンニゴーニの技法に関する先行研究はわずかで、現存するアンニゴーニの弟子たちにその技術が継承されているだけである。また、アンニゴーニは支持体に和紙を使用していたことが一部の書籍の記述から分かっているが、図録や美術館の作品キャプションには、その和紙の記載は省略されており、いつからどの程度、彼の作品に使用されていたかは不明である。

本稿では、アンニゴーニの一連のテンペラ・グラッサの制作工程とその特質を明らかにするとともに、アンニゴーニが何故、和紙を支持体として敢えて使用したのか、また、アンニゴーニの絵画の描写表現に和紙がどのような効果を与えていたのか、現地調査をもとに考察した。

その結果、アンニゴー二のテンペラ・グラッサの手法は、初期はヴェネチア派の手法から始まり、徐々に北方ルネサンスの手法へと移行したことが推測できた。

また、1940年代後半以降、ほぼすべてのアトリエで描いたテンペラ画作品には支持体に和紙が使用されていたことが明らかになった。更には、和紙が支持体に使用されたアンニゴーニのテンペラ画の作品は、和紙の肌合いを活かした繊細なテンペラ絵具による表現によってつくられており、和紙とアンニゴーニのテンペラ技法の密接な関係性が明らかになった。

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