2023 年 4 巻 p. 69-78
物理的な透明性を持つ材料を用いた絵画は、近現代において広く見られる表現傾向の一つであり、筆者もまた透明性のある材料を用いて油彩表現に取り組む制作者である。しかしながらその表現効果や技法材料を検証する研究は未だ不十分な状況である。本論では、物理的な透明性を持つ絵画表現の意義を探る研究の一環として、研究の基盤を構築し、透明な材料を支持体に用いた近現代の絵画の特性を制作者の視点から考察する。
研究方法として、まず本論における透明・半透明等の語の意味合いを定め、透明性を持つ造形技法材料の概要を確認し、先行作品を分類する。以上に基づき、分類のうち支持体に透明性を持つ作品の一部を対象に調査分析する。
その結果、物理的な透明性と絵画表現についての研究の基盤となる事項が確認・整理され、これに基づく作品分析から作品の多様な表現効果や各作家の表現意図が明らかになった。
結論として、今回調査した透明材料を支持体とする作品の特性は、運動、浮遊感、重層感等と関わりを持つ視覚表現であることではないかと考えられた。今後さらなる作品分析および実践的研究の結果を通して、物理的な透明性を持つ絵画表現の意義を明らかにしていきたい。