クロストリジウム属菌の産生する毒素の中で, ボツリヌス毒素は破傷風毒素と並んで極めて毒性の高い蛋白毒素である。毒素はシナプス前部に作用し, 神経伝達物質の開口放出機構を阻害することは古くから知られていたが, その全容の解明までには至っていなかった。しかし, 最近毒素遺伝子のクローニングにより毒素の構造解析が急速に進展した。毒作用の本態は亜鉛依存性のプロテアーゼであり, その標的物質はシナプス小胞から神経伝達物質が放出する際に関与するSNAP受容体と呼ばれる蛋白であることが明らかになってきた。さらに, シナプス小胞に存在するシナプトタグミンがB型毒素受容体蛋白として重要な働きをしていることから, 神経細胞における毒素の受容体認識から毒性発揮に至る一連の作用発現過程は神経伝達物質の遊離に関わるシナプス小胞の動態と密接に関連していると考えられる。