2016 年 18 巻 4 号 p. 145-151
サツマイモネコブセンチュウ抵抗性検定圃場におけるサツマイモ品種・系統への線虫寄生程度を,谷和原圃場(茨城県つくばみらい市)と香取現地圃場(千葉県香取市)の2か所において2003年~2013年の11か年にわたり調査した.線虫寄生程度は個々の年次によっては圃場間で差異が認められたものの,11か年の平均でみれば両圃場で近似していた.2圃場間では調査法がやや異なるが,抵抗性判定結果への影響は小さかった.香取現地圃場では谷和原圃場のレースSP4と異なりレースSP6類似の病原性を有する個体が優占し,かつ複数の線虫レースが同一圃場に存在していることが強く示唆された.また,圃場での抵抗性検定結果のみから線虫レースを特定することは困難であり,線虫の単一卵嚢系統作出によるレース特定が必要であることが示された.
サツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita)は,サツマイモの細根や塊根を加害して塊根品質・収量を低下させるため,克服すべき重要な病害虫の一つとなっている.本種がサツマイモに寄生すると,細根には顕著な根こぶは形成されず全体的に肥大するだけで,その後,寄生部位に寄生数に応じて卵嚢(後述)が産生される.本種の寄生によって塊根の生長にともなう通常の肥大は損なわれ,また塊根に裂開が生じるなどして塊根品質低下を招く(Clark and Mayer 1988,上田 2010).さらに,栄養吸収根の壊死・脱落・消失による減少等から,塊根数の減少,上いも割合の低下につながり,加害が著しい場合には減収を招く(山下 2003).サツマイモネコブセンチュウが土壌からサツマイモの根に侵入すると,防除することが非常に困難になるため,植付け前に土壌の線虫密度を低く抑制しておくことが重要であり,産地では殺線虫剤が使用されている.しかし,生産コストや環境負荷の面で課題があるため,線虫抵抗性品種の育成に対する期待が大きくなっている.本線虫への抵抗性の程度には品種・系統によって免疫的な高度抵抗性から最弱の感受性まで様々なレベルがあることが報告されている(近藤ら 1972).また,線虫抵抗性品種は,被害を軽減できるばかりでなく,圃場における本種の生息密度を下げ,後作にも効果のあることも確認されている(近藤 1972,稲垣・百田 1983).このようなことから,農研機構次世代作物開発研究センターでは同機構谷和原畑圃場(茨城県つくばみらい市,以下谷和原圃場と表記)内に設けた線虫抵抗性検定圃場と香取現地圃場(千葉県香取市)の2か所においてサツマイモネコブセンチュウ抵抗性検定試験を実施し,抵抗性品種の開発を進めてきた.
サツマイモネコブセンチュウの抵抗性検定に際しては,本種が高密度に維持されている圃場に検定品種・系統を植付けて栽培し,谷和原圃場では約2か月,香取現地圃場では約3か月の栽培後に調査を実施している.ネコブセンチュウの卵は根の表面に産卵直前から産卵時にかけ分泌されるゼラチン様物質(卵嚢物質)中に数百個産卵される(佐野ら 2002).その卵塊は卵嚢と呼ばれ,肉眼観察も可能である.線虫の寄生程度は卵嚢の着生程度によって知ることができる.そこで圃場における抵抗性検定では肉眼調査ができる卵嚢を指標とした.なお,谷和原圃場では細根の卵嚢着生程度により,香取現地圃場では細根の卵嚢着生程度に塊根の障害程度を加味し,寄生程度の判定を実施した.
サツマイモネコブセンチュウについては,佐野ら(2002)およびSano and Iwahori(2005)により,複数の線虫レースが国内に分布していることや,サツマイモ品種・系統の抵抗性反応が線虫レースによって異なることが報告され,近年は線虫レースに対応した品種育成にも注意がなされるようになってきている.また,Sano and Iwahori(2005)はSP1~SP9の線虫レースを見出し,表1に示したように,それらが5つの検定用品種・系統への寄生パターンにより区分できることを報告している.
検定品種・系統 | 線虫レース | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
SP1 | SP2 | SP3 | SP4 | SP5 | SP6 | SP7 | SP8 | SP9 | |
農林1号 | + | + | + | + | − | + | − | + | − |
農林2号 | − | + | − | + | + | − | + | + | − |
種子島紫7 | − | − | + | + | + | + | − | − | − |
エレガントサマー | − | − | − | + | − | + | − | − | + |
ジェイレッド | − | − | − | − | − | − | − | + | − |
+:感受性,−:抵抗性(ポット試験で500頭接種した時に着生卵嚢数が2個以下).
本稿では,2003年から2013年までの11か年におけるサツマイモネコブセンチュウ抵抗性検定試験の結果を,2圃場についてまとめた.その結果から2圃場における寄生性の特性について比較を行うとともに,線虫レースの差異についても検討を加えた.
本線虫抵抗性検定用圃場のサツマイモネコブセンチュウは,レースSP4に区分されることが報告されている(佐野ら 2002,Sano and Iwahori 2005,百田ら 2012).本圃場では年に約300系統の抵抗性検定を行っているが,それらの中から基準品種として毎年供試されているSPレース検定品種・系統である「農林1号」,「農林2号」,「エレガントサマー」,「ジェイレッド」,「種子島紫7」および「関東14号」の結果を抽出した.なお,「ジェイレッド」以外はサツマイモネコブセンチュウのレースSP4に対して全て感受性である.
2003年~2009年は,植付けを7月中下旬に行って9月中旬に寄生程度を調査した.無マルチ栽培で,畦間は70 cm,株間は15 cmとした.2010年以後は,植付けを5月中旬に行って7月中旬に寄生程度を調査した.マルチ被覆栽培で,畦間は100 cm,株間は15 cmとした.試験区は1区5株で2反復とした.なお,2009年以前は検定試験に先立ってホウセンカを栽培し,線虫密度の向上を図ったが,ホウセンカによってサツマイモネコブセンチュウ以外にキタネコブセンチュウ(M. hapla)が増殖する可能性があるため(百田ら 2006),2010年以降はホウセンカの栽培は中止した.一方,2010年以降はキタネコブセンチュウが増殖しないスイカを輪作することによりサツマイモネコブセンチュウのみの増殖を図るとともに,試験前年には感受性の「関東14号」を作付けて本線虫の維持・増殖に努めた.なお,2008年から2010年にかけて本圃場のサツマイモネコブセンチュウ生息密度を調査したところ,土壌20 gあたり概ね100頭を超える密度であった(藏之内ら 2012).
線虫の寄生程度は細根の卵嚢着生状況により判定した.調査株は根を丁寧に掘り上げて細根を洗浄した後,観察を容易にするためフロキシンBの0.05%水溶液に約30分間浸漬して卵嚢を赤色に染色し,卵嚢の着生状況を肉眼により調査した.卵嚢の着生の多少により,寄生程度の判定を次のように5段階で株ごとに行い,平均値により抵抗性を判定した.
1(無):卵嚢が認められない.
2(微):1~2個の卵嚢が認められる.
3(少):数個の卵嚢が認められる.
4(中):一部に卵嚢の着生が目立つ.
5(多):全体に卵嚢の着生が目立つ.
なお,品種育成における本線虫抵抗性の判定は,農林水産技術情報協会(1971)に基づき,標準品種の寄生程度を参考に実施してきた.
2. 香取現地圃場での検定本現地圃場にはサツマイモネコブセンチュウレースSP6の存在が報告されている(百田ら 2012).先述のレース検定品種・系統のうち「農林2号」と「ジェイレッド」以外がSP6に感受性を示す.供試品種・系統は谷和原圃場と同様である.植付けを6月上旬に行って9月中旬に寄生程度を調査した.マルチ栽培で,畦間は約100 cm,株間は25 cm,1区5株2反復とした.なお,本圃場は連作により検定を実施し,翌年のための線虫の維持・増殖にも努めている.
調査は概ね谷和原圃場と同様であるが,現地であることから染色はせず,また栽培期間が長いことから卵嚢着生程度に塊根被害程度を加味し,寄生程度の判定を以下の5段階で株ごとに行い,平均値により抵抗性を判定した.
1(無):細根に卵嚢が認められない.
2(微):細根に1~2個の卵嚢が認められる.
3(少):細根に数個の卵嚢が認められる.
4(中):細根の一部に卵嚢の着生が目立ち,塊根に裂開等の被害が認められる.
5(多):細根全体に卵嚢の着生が目立ち,塊根に裂開等の被害が目立つ.
2013年には「農林2号」と「ジェイレッド」の細根を解剖し,寄生していた雌成虫の会陰紋による種の簡易同定を行った.
3. 香取現地圃場土を用いたガラス室内試験香取現地圃場線虫の寄生特性を詳細に知るため,ガラス室内で土壌接種による鉢試験を行った.供試品種・系統は「農林2号」,「ジェイレッド」および「関東14号」である.市販の園芸培土2 L(約1730 g)を入れたプラスチック鉢(径約18 cm)を50℃で1週間乾熱処理して殺虫したものを用いた.現地圃場土壌は2013年9月6日に採取して冷暗所で保管,9月9日に全体をよく撹拌し,1鉢あたり600 g(約430 mL)を鉢の上層に接種した.直後に4~5節苗を植付け,高温を避けるため,寒冷紗で上部を覆った.比較のため,現地圃場土を加えない未接種区(「関東14号」を植付け)を設けた.各品種・系統について5鉢を供試した.
栽培・管理はガラス室内のベンチ上で約2か月間行い,試験期間中の鉢の平均地温(深度10 cm)は23.7℃であった.11月14日に栽培を終了し,その時点での線虫の寄生程度,卵嚢数および鉢あたり総卵数を調査した.寄生程度調査は谷和原圃場(抵抗性検定圃場)での方法に準じた.卵数調査は「農林2号」と「ジェイレッド」の場合,鉢毎に全卵嚢をシラキュウス時計皿に採取して次亜塩素酸ナトリウム原液を滴下,卵嚢物質を溶解処理し,分散した卵を計数した.「関東14号」では卵嚢が非常に多いため,1株全ての根を1~2 cm長に切断し,水200 mlを加えてミキサーにかけた後,さらに水を加えて1000 mlの懸濁液にした.懸濁液50 ml(4反復)を26 μmメッシュ篩に移し,メッシュ上に集められた卵嚢,根残渣等の上に次亜塩素酸ナトリウム原液10 mlをゆっくり滴下し,さらに同液10 mlを加えて3分間静置した.次に,メッシュ上の残渣をビーカーに移し,水と濾液とを加えて150 ml懸濁液としてから小型攪拌機で3分間攪拌後,150 μmメッシュ篩で根残渣を除き,26 μm篩でメッシュ上に集められた線虫卵を希釈法で計数した.
4. 香取現地圃場における線虫レース混在の可能性の確認 1) 単一卵嚢系統の作出前述の香取現地圃場土を用いた調査の方法に準じ,「関東14号」の苗を鉢に植えて2013年9月から2014年5月中旬まで線虫を維持・増殖した.同年4月15日に9 cm径の鉢に滅菌土を入れ,ホウセンカを播種して約1か月間養成した.5月21日に,鉢植えの「関東14号」の細根上に形成されたサツマイモネコブセンチュウの卵嚢を1個ずつ取り出してホウセンカの鉢に個々に接種した.接種方法は,鉢土の表面に深さ1 cm程度の窪みを作り,その中に卵嚢を置いて土を被せることで実施した.鉢は乾燥や過湿に注意しながら温室内で管理し,18の単一卵嚢系統を作出した.
2) 線虫レース混在の確認2014年7月23日に,温室において鉢植えで養成した「ジェイレッド」,「農林2号」および「関東14号」の蔓を採取し,1節ごとに切り分けて苗を作成した.9 cm径の鉢に滅菌土を入れ,苗を植付けて養成した.各品種・系統は4鉢ずつとし,合計12鉢を1セットとしてバットに並べ,線虫系統間のコンタミネーションを防止した.単一卵嚢系統18系統のうち十分な卵嚢が採取できた7系統を供試し,線虫の接種を7月30日から8月4日にかけて実施した.ホウセンカの細根上に形成された卵嚢を採取し,1鉢あたり卵嚢2個を接種した.鉢は乾燥や過湿に注意しながら温室内のベッド上で管理した.鉢の地温を測定し,サツマイモネコブセンチュウの1世代経過に必要な有効積算温度(後藤ら 1973)をもとに,調査時期を決定した.9月16日から19日にかけ,細根に形成された卵嚢の形成状況を観察し,寄生程度と卵嚢数の調査を実施した.さらに線虫抵抗性については,Sano and Iwahori(2005)および百田ら(2012)における線虫レース判定の手法を参考に判定した.
両検定圃場について,2003年~2013年における基準品種・系統の線虫寄生程度の平均値を表2に示した.両検定圃場間で,線虫寄生程度を高さ順にみるとその並び順は同じで,統計的に両圃場間の寄生程度に有意差はみられなかった.また,両圃場での11年間の線虫寄生程度を共通供試品種・系統についてまとめると,有意な高い相関が認められた(図1).
品種・系統 | 線虫寄生程度 | |
---|---|---|
谷和原 | 香取 | |
農林1号 | 3.4 ± 0.7 | 3.1 ± 0.5 |
農林2号 | 2.4 ± 0.4 | 2.3 ± 0.7 |
ジェイレッド | 1.4 ± 0.3 | 1.6 ± 0.4 |
エレガントサマー | 2.5 ± 0.5 | 2.5 ± 0.4 |
種子島紫7 | 2.7 ± 0.6 | 2.8 ± 0.7 |
関東14号 | 4.5 ± 0.6 | 4.1 ± 0.5 |
2003年~2013年の平均値 ± 標準偏差で示す.
寄生程度は,1(無)~5(多)の5段階で判定.
谷和原圃場および香取現地圃場におけるサツマイモ品種・系統の線虫寄生程度(11年間の平均値)の相関関係.
寄生程度は,1(無)~5(多)の5段階で判定.
**:1%水準で有意な相関有り.
両検定圃場における線虫寄生程度の推移を図2に示した.いずれの圃場,いずれの年も,線虫寄生程度における品種・系統の高低関係には,2008年と2012年を除いて概ね一定の傾向がみられた.すなわち,「関東14号」の寄生程度が最も高く感受性を,一方「ジェイレッド」の寄生程度が最も低く強抵抗性を示した.他の4品種はそれらの中間的な値を示したが,「農林1号」はやや高い寄生程度を示す年が多かった.また,全体的にみると高低関係の逆転は比較的少なかったが,香取現地圃場での「農林2号」に注目すると,2007年,2011年および2012年のように「ジェイレッド」と同等または低い寄生程度の年が認められるなど,やや年次による寄生程度の振れが観察された.また,2008年については谷和原圃場で「種子島紫7」の寄生程度が低く,香取現地圃場では寄生程度の差が全体的に小さくなった.
谷和原圃場および香取現地圃場における線虫寄生程度の推移.
寄生程度は,1(無)~5(多)の5段階で判定.
2003年香取の「種子島紫7」は欠測.
2013年は香取現地圃場において「農林2号」の寄生程度が急に高くなったので,他の線虫のコンタミネーションの有無を確認するため,「農林2号」57頭と「ジェイレッド」15頭の寄生雌成虫について簡易同定を行った結果,「農林2号」に1頭のキタネコブセンチュウが確認されたものの,他は全てサツマイモネコブセンチュウであった.
2. 香取現地圃場土を用いたガラス室内試験接種土壌の線虫数は1鉢約24000頭,20 gあたりにすると約200頭となり,谷和原圃場の検定試験植付け時密度以上の高密度を示し,十分な線虫密度が確保されていた.線虫寄生程度を表3に示したが,「関東14号」で高い寄生程度となり,一方「ジェイレッド」ではほとんど寄生は認められなかった.「農林2号」はそれらの中間よりも低い寄生程度であった.
品種・系統 | 線虫寄生程度 | 卵嚢数 | 産卵数 |
---|---|---|---|
農林2号 | 2.2 ± 0.8 | 8.8 ± 6.4 | 8,592 ± 6,303 |
ジェイレッド | 1.2 ± 0.5 | 0.4 ± 0.8 | 424 ± 848 |
関東14号 | 4.2 ± 0.5 | * | 258,027 ± 128,817 |
関東14号(未接種) | 1.0 ± 0.0 | 0 | 0 |
2013年調査.数値は鉢あたり平均値 ± 標準偏差で示す.
線虫寄生程度は,1(無)~5(多)の5段階で判定.
産卵数は充実卵数と卵殻のみの空卵数との合計.
*「関東14号」の卵嚢数は非常に多いため計数せず.
「関東14号」の産卵数は,充実卵数に他2品種の空卵率(33%)から推計した空卵数を加えた値.
卵嚢数および産卵数(充実卵数+空卵数)を表3に示した.「ジェイレッド」は1株のみ卵嚢を僅かに認め,平均産卵数は接種頭数の2%弱であった.「農林2号」は5株中4株で卵嚢が認められたが,産卵数は最多の株でも接種頭数の約70%,平均産卵数では同約36%であった.一方,「関東14号」では多数の卵嚢が認められ,産卵数も最少の株で接種頭数の4倍,最多の株では同18倍,平均産卵数で接種頭数の10倍強であった.
3. 香取現地圃場における線虫レース混在の可能性単一卵嚢由来7系統の3品種・系統における1株あたりの卵嚢数を表4に示した.接種卵嚢数が2個であることから卵嚢数が2個を超えるものを感受性,2個以下を抵抗性と見なすと,「関東14号」は全ての供試線虫系統に感受性であった.「ジェイレッド」と「農林2号」は多くの線虫系統に抵抗性を示したが,「農林2号」は1系統(KR3)に感受性を示した.
線虫系統 | 品種・系統 | ||
---|---|---|---|
農林2号 | ジェイレッド | 関東14号 | |
KR1 | 0.0 ± 0.0(−) | 0.3 ± 0.4(−) | 21.0 ± 12.9(+) |
KR2 | 0.0 ± 0.0(−) | 0.8 ± 0.8(−) | 11.7 ± 10.5(+) |
KR3 | 9.5 ± 8.8(+) | 0.5 ± 0.5(−) | 40.8 ± 30.4(+) |
KR5 | 0.0 ± 0.0(−) | 0.0 ± 0.0(−) | 14.3 ± 15.7(+) |
KR6 | 0.0 ± 0.0(−) | 0.0 ± 0.0(−) | 38.0 ± 21.9(+) |
KR7 | 0.0 ± 0.0(−) | 0.5 ± 0.5(−) | 16.0 ± 9.8(+) |
KR9 | 0.8 ± 0.8(−) | 2.0 ± 1.2(−) | 48.0 ± 18.6(+) |
2014年調査.数値は1株あたりで,供試した4株の平均値 ± 標準偏差で示す.
( ):接種卵嚢数2個に対して,2を超えるものを+(感受性),2以下を−(抵抗性)と判定.
谷和原圃場と香取現地圃場の2圃場間における線虫寄生程度の数値には,11年間の平均値でみる限りでは,いずれの供試品種・系統についても大きな差は認められなかった.長期的視点からは両圃場間でサツマイモネコブセンチュウ抵抗性検定が比較的安定して実施できていることが分かった.また,2圃場間で調査方法が少し異なっているが,線虫寄生程度は近似した数値となっており,影響は少ないと判断される.ただし,後述するように,香取現地圃場における線虫寄生程度は,複数レースの混在により現れる結果となっていることを念頭に置く必要がある.
谷和原圃場での検定試験は,2009年以前は7月中下旬植え,2010年以降は5月中旬植えで実施しているが,11年間の線虫寄生程度をみても,藏之内ら(2012)の結果と同様に試験実施時期の差は認められない.また,2003年~2007年は「ジェイレッド」の寄生程度がやや高かった.これは,検定試験に先立って栽培していたホウセンカによってサツマイモネコブセンチュウ以外にキタネコブセンチュウが増殖し(百田ら 2006),この種がサツマイモにも少数ながら寄生することで寄生程度の判定に影響したことが考えられる(百田ら 2007).しかし2008年以降は「ジェイレッド」の寄生程度が1に近く,この影響が少なくなっていることが示唆される.なお,香取現地圃場では,2013年の種同定の結果から推察すると,キタネコブセンチュウの寄生による抵抗性判定への影響はほぼ無いものと考えられる.
2008年の香取現地圃場では線虫寄生程度の差が縮小したが,平均地温が25.0℃と前後年(2007年:25.5℃,2009年:欠測,2010年:27.2℃)よりやや低かったものの大きな差ではなかった.また,試験期間中の降水量は419 mmと前後年(2007年:550 mm,2009年:493 mm)よりやや少なかったものの極端な差ではなかった.このように気象面からは原因が特定できない.一方,同年に谷和原圃場で「種子島紫7」の寄生程度の低下が特異的に認められたが,この原因も明らかではない.原因についてはさらに検討が必要と考えられる.
香取現地圃場における寄生程度の推移をみると谷和原圃場に比べ「農林2号」と「ジェイレッド」の年次変動が大きく,谷和原圃場では両品種とも比較的ゆるやかな推移を示したが,香取現地圃場では年による高低の振れが大きい傾向で推移した(図2).
香取現地圃場のサツマイモネコブセンチュウレースについてSP6との報告(百田ら 2012)があり,このような寄生性を示す線虫個体群が検定圃場全体に生息するならば本圃場での「農林2号」の寄生性程度は1に近い値を示すはずであるが,圃場検定および本土壌接種試験の結果は異なっていた.一方,単一卵嚢系統による寄生性試験では,「農林2号」が抵抗性を示す6系統の他に感受性を示す1系統(KR3)が見出されている.このことから,香取現地圃場にはレースSP6のような「農林2号」に寄生できない比較的病原性の弱い系統が数的優勢に分布するが,圃場検定等の結果が示す病原性についてみれば,KR3のような数的には劣勢であってもより強力な病原性を有する系統の方が「農林2号」の検定結果に大きく影響していることが考えられる.また,このような複数の線虫レースの混在が「農林2号」の線虫寄生程度の変動に関わっている可能性が考えられ,今後詳しく検討する必要がある.さらに,表2に示したような線虫寄生程度のみから線虫レースを特定することが困難であることも示された.すなわち,香取現地圃場では複数の線虫レースの混在により,あたかもレースSP4のような寄生パターンとなることが示唆された点に注意せねばならない.
次に,香取現地圃場において「ジェイレッド」の線虫寄生程度の年次較差が大きく,年次によって2に近い値を示したが,この点については本圃場におけるように検定期間が長くなった場合に寄生程度が高くなる事例を別の晩期調査試験で認めており(未発表),今後検討を加える予定である.
以上から,谷和原圃場と香取現地圃場でのサツマイモネコブセンチュウ抵抗性検定の線虫寄生程度は,個々の年次によっては圃場間で寄生程度の傾向に差がみられるものの,長期的視点では両圃場で近似していることが明らかとなった.その一方で,圃場での抵抗性検定の結果のみから圃場の線虫レースを特定することは困難であることが明らかとなり,線虫レースに対応した線虫抵抗性育種を今後進める上で,単一卵嚢系統作出による線虫レースの特定が必要であると考えられる.
本病抵抗性検定の実施にあたり,農研機構つくば技術支援センター谷和原業務第2科職員・契約職員の各位,当領域カンショ担当の契約職員の各位に多くのご協力をいただきました.また,現地検定圃場の設置および管理については,香取市の高木則明氏に多くのご協力をいただきました.ここに記して,厚く謝意を表します.