育種学研究
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最新号
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総説
  • 田部井 豊, 津田 麻衣
    原稿種別: 総説
    2025 年27 巻1 号 p. 1-6
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/17
    [早期公開] 公開日: 2025/04/11
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    ゲノム編集技術をはじめ様々なゲノム改変技術が含まれる「新しい植物育種技術(New Plant Breeding Techniques, NPBT)」という出版物が,2011年にEuropean Commission, Joint Research Center(JRC)により取りまとめられた.ゲノム編集技術により,すでにゲノム編集ダイズやトマト,タイ,トラフグ等が開発され商業利用が始まっており,医療や農業等多方面で不可欠な技術となりつつある.NPBTで次に注目され得る技術として,シスジェネシスとイントラジェネシスがあげられる.本技術で利用できる遺伝資源は交雑及び胚培養等により雑種作出が可能な種(以下,「交雑可能な種」とする)に限られるが,シスジェネシスは,遺伝子組換え技術を用いて自然に存在する遺伝子のノーマルセンス方向の同一コピーを導入するため,交雑育種と同様の遺伝的改変を精密かつ迅速に行うことを可能とする.イントラジェネシスはプロモーター等の遺伝子配列を自由に組み合わせて利用できる点で作物改良にとってより大きな可能性を有している.果樹やジャガイモ等の栄養繁殖性作物や一世代が長くヘテロ性が高い等の理由により交雑育種が困難な植物種の研究開発に利用されている.シスジェネシスとイントラジェネシスは遺伝子組換え技術を利用する.本技術により改変された作物について,2012年に欧州食品安全機関(European Food Safety Authority, EFSA)により両技術の特徴やリスクの検証がなされ,その後2022年に再考察が行われた.また,本技術の取扱いについて,米国やカナダ,英国,フィリピン等,いくつかの国で規制方針が示されている.本稿では,シスジェネシスとイントラジェネシスの両技術の特徴と育種への利用の可能性を述べるとともに,今後,日本において本技術を用いるための規制方針について考察した.

原著(研究論文)
  • 牧 英樹, 岩橋 福松, 大毛 淑恵, 藤本 龍, 山崎 将紀
    原稿種別: 原著(研究論文)
    2025 年27 巻1 号 p. 7-18
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/17
    [早期公開] 公開日: 2025/04/15
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    電子付録

    作物の品種育成で必要不可欠となっている表現型計測には多大な時間と労力が割かれていることから,その効率化が求められている.ハイパースペクトル(HS)カメラを利用したイメージング技術は,植物の内部状態を非破壊で解析できるだけでなく,目的とする情報の分布を可視化できる点が大きな魅力である.本手法の強みを活かし,植物における化学的ならびに生理的特性の解析を高速かつ簡便にすることを本研究の目的とし,その一例としてイネ幼苗の光合成産物含量の非破壊評価系の確立を試みた.日本型イネ品種「コシヒカリ」およびインド型イネ品種「IR64」の幼苗を様々な光条件で栽培し,HSカメラで撮影した画像から植物部分のHS反射率データを抽出した.撮影後のイネ幼苗は部位別に採集し,光合成産物(ショ糖およびデンプン)の含量をLC-MSの分析値から算出した.全体で葉身198点および葉鞘198点のデータを分割し,学習データと検証データとした.HS反射率データを説明変数,ショ糖含量およびデンプン含量を目的変数として,部分的最小二乗回帰(Partial Least Squares Regression: PLS)によって部位別に予測モデルを作成し,決定係数(R2)などを算出した.同一個体を経時的に撮影したHS反射率データに,作成したショ糖含量の予測モデル(葉身:R2 = 0.58,葉鞘:R2 = 0.73)とデンプン含量の予測モデル(葉身:R2 = 0.89,葉鞘:R2 = 0.68)を適用し,画素単位のショ糖含量およびデンプン含量の分布を推定したところ,連続的な光条件下で各含量が徐々に増加する様子を可視化できた.また,各含量の実測値では,先んじて葉身で増加し,遅れて葉鞘での増加が認められ,可視化画像においても同様の傾向が確認された.以上の結果から,HSイメージングを用いることで,イネの幼苗における個体レベルの光合成産物含量の差異や変化を非破壊で可視化できることが示された.

  • 小林 晃, 川田 ゆかり, 境垣内 岳雄, 末松 恵祐, 甲斐 由美, 小林 有紀
    原稿種別: 原著(研究論文)
    2025 年27 巻1 号 p. 19-29
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/17
    [早期公開] 公開日: 2025/05/16
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    サツマイモ(Ipomoea batatas (L.) Lam.)の栽培が盛んな南九州では,近年,サツマイモ基腐病(以下,基腐病)による深刻な被害が生じている.基腐病は日本では2018年に初めて確認された病害であるため,日本で栽培されている品種の本病に対する抵抗性についての知見はない.そこで,本研究では2020年および2021年の2年間,基腐病の発生が激しい圃場で47の品種(主要15品種,参考32品種)を栽培し,抵抗性を評価した.5月上旬の植え付けから10月上旬の収穫まで,暗褐色~黒色に変色した茎の病変部の位置および病変長を継時的に計測し,茎葉発病度,基部発病株率,枯死株率,収穫時には塊根発病度,発病塊根重率,塊根収量を調査した.植え付け後,約2カ月前後から発病が認められ,生育期間が長くなるに従って発病は進み,主要な15品種間には,茎葉発病度,基部発病株率に有意な品種間差が認められた(p < 0.05).また,茎葉発病度と基部発病株率の間には高い相関が認められ,基部発病株率を指標として茎葉の抵抗性の評価が可能であることが明らかとなった.塊根発病度および発病塊根重率にも有意な品種間差が認められ,品種間の収量差も顕著に現れ,地上部の発病が塊根収量に大きく影響することが明確となった.そこで,茎葉発病度および基部発病株率を重視した上で,塊根の発病程度や収量を勘案して主要15品種の抵抗性程度を評価し,参考32品種については基部発病株率から抵抗性程度を評価した.また,これらの結果に基づき,当面は,「ダイチノユメ」を“弱”,「高系14号」を“やや弱”,「アヤムラサキ」を“中”,「こないしん」と「べにまさり」を“やや強”,「タマアカネ」を“強”の指標品種にすることにした.本研究で得られた抵抗性の情報が今後の基腐病対策や抵抗性品種の育成に寄与することを期待する.

原著(品種育成)
  • 加藤 啓太, 伴 雄介, 伊藤 美環子, 川口 謙二, 大楠 秀樹, 田中 智樹, 川上 裕之, 山口 雅裕, 高田 兼則, 谷中 美貴子, ...
    原稿種別: 原著(品種育成)
    2025 年27 巻1 号 p. 30-38
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/17
    [早期公開] 公開日: 2025/04/10
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    電子付録

    日本初のデュラムコムギ(Triticum turgidum ssp. durum (Desf.) Husn.)品種「セトデュール」はデュラムコムギの中では早生品種であるが,パンコムギに比べて穂発芽や赤かび病に弱いという欠点がある.そのため梅雨入り後の降雨に遭遇する前に収穫する必要があり,栽培適地は生育期間を通じて比較的降雨の少ない瀬戸内地域に限定されている.また,パスタの色や食感など,品質面でも改良すべき点がある.これらの改善に向けて育種選抜を進め,加工適性に優れるデュラムコムギ新品種「セトデュールR5」を育成した.「セトデュールR5」は「Mv-Pennedur」/「セトデュール」*2の組み合わせから派生系統育種法により育成し,2024年2月に品種登録出願公表された.「セトデュールR5」は「セトデュール」と同等の早生性および栽培性を有していた.収量は「セトデュール」より約1割少ないが原麦の蛋白質含有率が約1%高かった.穂発芽耐性,赤かび病抵抗性はそれぞれ“やや易”,“やや弱”で,「セトデュール」より向上していた.小麦粉の黄色色素量,パスタ加工後の乾麺および茹で麺の黄色味(b*値)は「セトデュール」より高かった.「セトデュールR5」の高分子量グルテニンの組成はGlu-A1cおよびGlu-B1hで低分子量グルテニンはLMW-2であり,茹で麺の破断強度が高く,「セトデュール」よりパスタ加工適性に優れていた.以上より「セトデュールR5」は「セトデュール」の後継品種として普及が期待される.

  • 川田 ゆかり, 小林 晃, 甲斐 由美, 境垣内 岳雄, 末松 恵祐, 境 哲文, 髙畑 康浩, 田淵 宏朗
    原稿種別: 原著(品種育成)
    2025 年27 巻1 号 p. 39-50
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/17
    [早期公開] 公開日: 2025/05/01
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    電子付録

    サツマイモの主要産地のひとつである南九州(鹿児島県および宮崎県)では,2018年に国内で初めて発生したサツマイモ基腐病により甚大な被害が生じた.青果・食品加工用の主要品種「高系14号」および「べにはるか」はいずれも十分な抵抗性を備えておらず,抵抗性品種が求められていたことから,青果・食品加工用抵抗性品種「べにひなた」を育成した.「べにひなた」は,サツマイモ基腐病への強度の抵抗性と外観品質の高さを特長とするほくほくとしたタイプの品種である.塊根は皮色が“紫赤”で形状整否が“中~やや整”であり,外観の評価は“中~やや上”であった.育成地における収量性は,標準栽培および早掘栽培のいずれの作型でも「高系14号」より優れ,「べにはるか」と同等かやや優れた.サツマイモ基腐病抵抗性は“強”であり,“やや弱”の「高系14号」および“弱~やや弱”の「べにはるか」より優れた.標準栽培および早掘栽培の蒸しいも特性(貯蔵期間1~2週間)は,肉色が“淡黄白”で「高系14号」および「べにはるか」より薄く,肉質は「高系14号」および「べにはるか」と同等の“中”,食味は“やや上”であり,糖度は「高系14号」より高く「べにはるか」より低かった.青果・食品加工用のサツマイモ品種を利用面で主に特徴づけるのは肉質であるが,標準栽培した塊根を3か月間貯蔵しても「べにひなた」の肉質は粘質とならず,「べにはるか」より「高系14号」に近いタイプに位置づけられた.普及見込み地域(宮崎県および鹿児島県)の公設試験研究機関による試験では,外観品質の高さは育成地と同様に高く評価され,肉質は“粉”~“やや粉”の評価であり,上いも重は「高系14号」比79~126%であった.「べにひなた」は,サツマイモ基腐病の被害状況に応じて産地に取り入れられ,「高系14号」を補完する用途で利用されることで,南九州における青果・食品加工用サツマイモの安定生産に貢献すると期待される.

  • 伊藤 美環子, 伴 雄介, 加藤 啓太, 川口 謙二, 高田 兼則, 谷中 美貴子, 船附 稚子, 池田 達哉, 石川 直幸
    原稿種別: 原著(品種育成)
    2025 年27 巻1 号 p. 51-60
    発行日: 2025/06/01
    公開日: 2025/06/17
    [早期公開] 公開日: 2025/05/14
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    西日本地域では,パン用コムギ品種として「せときらら」や「ミナミノカオリ」が広く栽培されている.「せときらら」は多収である反面,子実の蛋白質含有率が低くなりやすく,「ミナミノカオリ」は穂発芽耐性が劣るため,雨害による品質低下が起こりやすい.また,近年西日本地域ではコムギ縞萎縮病の拡大や暖冬年での幼穂の凍霜害が問題となっている.これらの問題を解決するため,蛋白質含有率が高く,穂発芽耐性,コムギ縞萎縮病抵抗性が優れた秋播性の品種の育成を目標に「中系10-28」を母本,「10Y1-048(後の「くまきらり」)」を父本とした人工交配を行い,その後代から派生系統育種法により「せとのほほえみ」を育成した.「せとのほほえみ」は蛋白質含有率が「せときらら」より高く,製パン性が優れるとともに,穂発芽耐性も「せときらら」や「ミナミノカオリ」より優れていた.また,「せとのほほえみ」は播性IVの秋播性品種で,一定の低温期間を経てから幼穂が分化するため,暖冬年でも早すぎる幼穂分化が起きず,「せときらら」や「ミナミノカオリ」などの幼穂の分化に低温を必要としない春播性の品種に比べ,凍霜害のリスクは低いと考えられた.さらに,「せとのほほえみ」はコムギ縞萎縮病抵抗性遺伝子領域QYm.naro-2Dを持ち,本病に対し,優れた抵抗性を示すことが明らかとなった.以上のことから「せとのほほえみ」は製パン性が高く,秋播性で幼穂が凍霜害を受けるリスクが少なく,関東・東海・東山地域などの冬の気温がある程度低い地域やコムギ縞萎縮病の発生地域にも適応できる品種であると考えられ,今後西日本地域だけでなく,関東から九州までの広い地域で栽培できる新たなパン用コムギ品種としての普及が期待される.

特集記事 2024年第65回シンポジウム(シンポジウム・ワークショップ)報告
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