ゲノム編集技術をはじめ様々なゲノム改変技術が含まれる「新しい植物育種技術(New Plant Breeding Techniques, NPBT)」という出版物が,2011年にEuropean Commission, Joint Research Center(JRC)により取りまとめられた.ゲノム編集技術により,すでにゲノム編集ダイズやトマト,タイ,トラフグ等が開発され商業利用が始まっており,医療や農業等多方面で不可欠な技術となりつつある.NPBTで次に注目され得る技術として,シスジェネシスとイントラジェネシスがあげられる.本技術で利用できる遺伝資源は交雑及び胚培養等により雑種作出が可能な種(以下,「交雑可能な種」とする)に限られるが,シスジェネシスは,遺伝子組換え技術を用いて自然に存在する遺伝子のノーマルセンス方向の同一コピーを導入するため,交雑育種と同様の遺伝的改変を精密かつ迅速に行うことを可能とする.イントラジェネシスはプロモーター等の遺伝子配列を自由に組み合わせて利用できる点で作物改良にとってより大きな可能性を有している.果樹やジャガイモ等の栄養繁殖性作物や一世代が長くヘテロ性が高い等の理由により交雑育種が困難な植物種の研究開発に利用されている.シスジェネシスとイントラジェネシスは遺伝子組換え技術を利用する.本技術により改変された作物について,2012年に欧州食品安全機関(European Food Safety Authority, EFSA)により両技術の特徴やリスクの検証がなされ,その後2022年に再考察が行われた.また,本技術の取扱いについて,米国やカナダ,英国,フィリピン等,いくつかの国で規制方針が示されている.本稿では,シスジェネシスとイントラジェネシスの両技術の特徴と育種への利用の可能性を述べるとともに,今後,日本において本技術を用いるための規制方針について考察した.
抄録全体を表示