育種学研究
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原著(研究論文)
  • 中村 春貴, 石川 吾郎, 米丸 淳一, 郭 威, 山田 哲也, 藤郷 誠, 高橋 飛鳥, 八田 浩一, 小島 久代, 岡田 岳之
    原稿種別: 原著(研究論文)
    2024 年 26 巻 1 号 p. 5-16
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/07/03
    [早期公開] 公開日: 2024/05/22
    ジャーナル フリー HTML
    電子付録

    ムギ類の育種で行われる形質評価・選抜は多くの時間と労力を要するため,これらの高速化・自動化は非常に大きな役割をもつ.深層学習などの登場により飛躍的に発展した画像センシング技術は,画像から様々な情報を高速かつ高精度に取得することを可能にし,育種の効率化に貢献する.そこで,本研究ではこうした画像センシング技術を利用した育種の効率化を目的とし,その一例として物体検出技術を活用したムギ類の穂の検出と穂数調査方法の開発を試みた.穂の検出には,コムギ・オオムギを合わせて2,023枚の訓練画像と674枚の検証画像を供試し,YOLOv4を利用したモデルを作成した.作成した検出モデルは未学習のデータに対するmAP(mean Average Precision)が85.13%と良好な精度を示し,異なる麦種,熟期の画像に対し頑健と考えられた.作成したモデルとトラッキング技術を活用し,動画から穂数の推定を試みた.動画を用いた穂数の集計方法では,フレームあたり平均穂数と動画中のユニーク(固有)な穂の総数の2種類について,検出閾値を変えつつ検証した.その結果,閾値を0.35に設定した際のユニークな穂の総数による穂数推定が実測値と高い相関を示し,決定係数はオオムギで0.726,コムギで0.510だった.コムギ,オオムギの生産力検定試験区を対象に,穂揃い期以降の異なる3時点でこの手法により穂数の推定を行った.推定された穂数と生産力検定試験で得られた調査結果を比較したところ,相関係数は2年間の平均でオオムギでは0.499,コムギで0.337と全体の傾向としては一致していた.本研究で開発した手法は従来の目視による測定に比べて簡便であることに加えて反復間の再現性が優れていることから,ムギ類の穂数調査における省力化,高速化および高精度化に貢献できると考えられた.

原著(短報)
  • 太田 賢治, 橋本 順子, 米丸 淳一, 鐘ヶ江 弘美, 松下 景, 林 武司, 森田 哲之
    原稿種別: 原著(短報)
    2024 年 26 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/07/03
    [早期公開] 公開日: 2024/04/27
    ジャーナル フリー HTML
    電子付録

    環境適応性などの様々なニーズを満たす品種育成の加速化・効率化が必要であり,そのために大量の育種データ(育種ビッグデータ)に基づいた予測および選抜技術の開発が有効と考えられる.なお,これら育種ビッグデータを構築し利用するためには,国内の様々な育種組織が保有する作物育種データの一元化利用の仕組みが必要であるが,品種登録など知財確保が行われていない未公開の育種データも多く公開を前提とした一元化とその利用には困難な部分が多い.そこで,複数組織のデータを暗号化して集約し自組織データを他に明かすことなく処理や計算ができる「秘密計算技術」を適用することにより,安全かつ利便性の高い育種データの一元化利用が可能になる.例えば各都道府県の公設試や種苗会社などの複数組織が保持する機密性がある育種データを暗号化して他組織には内容を明かさずに収集し,暗号化したまま機械学習により表現型の予測モデルを作成して,そのモデルに基づく予測が可能となる.このような複数組織の育種データを用いた統合分析を行うことにより,育種の加速化・効率化に結びつくと考えられる.本論では,複数栽培地のイネの育種データの登録から機械学習モデルの作成およびそのモデルによる表現型予測までを秘密計算システム上で実行し,その適用可能性の評価を行った.具体的には予測精度と処理性能について平文との比較,および学習の全工程における秘匿性の評価を行った.その結果,単一組織のデータを用いた分析より,複数組織の育種データを互いに秘匿して活用可能な秘密計算の方が,予測精度が良いこと,またデータ登録から前処理,学習,評価,予測までの一連のAI処理全体を通してデータが秘匿できることを確認した.今後の課題は実利用場面での有用性の評価を行うことである.

原著(品種育成)
  • 池永 幸子, 谷口 義則, 伊藤 裕之, 中丸 観子, 髙山 敏之, 中村 俊樹, 氷見 英子, 石川 吾郎, 池田 達哉, 中村 和弘, ...
    原稿種別: 原著(品種育成)
    2024 年 26 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/07/03
    [早期公開] 公開日: 2024/04/06
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    東北地域で長く栽培されている「ナンブコムギ」は,コムギ縞萎縮病に弱く,長稈で倒伏しやすいため,これらの短所を改良した「ナンブキラリ」を育成した.「ナンブキラリ」は2002年5月にF1雑種「盛系C-130b-5-5//東北214号(後の「ゆきちから」)/東北207号/3/盛系C-B3423」を母本,「盛系C-B3423」を父本として人工交配(盛交W02-24)した組合せから派生系統育種法により日本麺用軟質小麦として育成した.2018年に品種登録出願を行い,2022年に品種登録された.稈長は「ナンブコムギ」より短く,倒伏しにくかった.平均収量が「ナンブコムギ」より1.4倍程度多かった.耐雪性は「ナンブコムギ」より劣るが,穂発芽はしにくかった.コムギ縞萎縮病に強く「ナンブコムギ」の短所が大幅に改善された.製粉歩留は「ナンブコムギ」より高く,製粉性に優れていた.Wx-B1欠のやや低アミロース品種で,アミログラムのブレークダウンが大きいため,めんの食感が優れていた.「ナンブキラリ」の小麦粉は「ナンブコムギ」と同様に黄色みが強く,「ナンブコムギ」より明度に優れていた.以上のことから「ナンブキラリ」は「ナンブコムギ」の短所であるコムギ縞萎縮病抵抗性,長稈,低収を改善し,長所である小麦粉の黄色みを有し明度に優れた品種として普及が期待される.

ノート
  • 小林 晃, 甲斐 由美, 境 哲文, 境垣内 岳雄, 末松 恵祐, 川田 ゆかり, 吉永 優, 高畑 康浩, 片山 健二, 藤田 敏郎, 田 ...
    原稿種別: ノート
    2024 年 26 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/07/03
    [早期公開] 公開日: 2023/12/15
    ジャーナル フリー

    でん粉原料用カンショは,南九州における基幹作物として,地域農業および地域経済を支える重要な役割を果たしている.しかし,近年,病害虫の多発や栽培面積の減少により,でん粉原料不足が深刻化している.これらの背景から,本研究では病害虫抵抗性が優れる,多収のでん粉原料用品種「こないしん」を育成した.「こないしん」の特性を複数年にわたり調査したところ,上いも重は,調査した5種類いずれの作型でも「シロユタカ」および「コガネセンガン」より明らかに優れ,「シロユタカ」比では118–148%であった.でん粉歩留は,「コガネセンガン」より高く,「シロユタカ」並みであり,でん粉重は,「シロユタカ」および「コガネセンガン」より優れ,「シロユタカ」比では116–152%であった.「こないしん」はサツマイモつる割病抵抗性は“やや強”,サツマイモネコブセンチュウのレースSP1,SP2,SP3,SP4に対する抵抗性は“強”,SP6-2には“やや強”,ミナミネグサレセンチュウ抵抗性は“やや強”,サツマイモ基腐病(以下,基腐病)抵抗性は“やや強”であった.基腐病が激発する現地圃場では,「こないしん」は「シロユタカ」および「コガネセンガン」よりも基腐病に起因した基部発病株率が低かったことから,南九州で深刻な被害が続いている基腐病の有効な防除手段になると考えられた.「こないしん」のでん粉の白度は「シロユタカ」並みに高く,粘度特性は「シロユタカ」との間に顕著な差は認められなかった.よって,でん粉の特性の面では「シロユタカ」から「こないしん」への置換えは円滑に進むと考えられた.さらに,「こないしん」は焼酎醸造適性も認められた.「こないしん」はでん粉原料用の主力品種である「シロユタカ」より収量が多く,基腐病やサツマイモつる割病に強く,2種の線虫にも強いことから,南九州での普及拡大により,カンショでん粉の安定生産への貢献が期待される.

  • 藤郷 誠, 乙部 千雅子, 八田 浩一, 藤田 雅也, 小島 久代, 髙山 敏之, 関 昌子, 松中 仁, 中村 俊樹, 齊藤 美香, 山田 ...
    原稿種別: ノート
    2024 年 26 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2024/06/01
    公開日: 2024/07/03
    [早期公開] 公開日: 2024/01/10
    ジャーナル フリー
    電子付録

    もち性コムギは世界で初めて日本で育成されたが,その利用は菓子や日本麺等のブレンド用にとどまっている.その理由の一つとして,グルテンの強い硬質もち性コムギ品種が存在しないことが挙げられる.すなわち,国内外のグルテンの力が強いコムギ品種は一般的にGlu-D1d遺伝子をもつが,現在,日本で栽培されているもち性コムギ品種はこの遺伝子をもたないため,グルテンの力が弱い.このため,強力コムギ特性が求められるパン等へ食感改良を目的としてブレンドした場合,小麦粉全体のグルテンの力を弱めることになる.農業・食品産業技術総合研究機構・次世代作物開発研究センター(現作物研究部門)は,DNAマーカー選抜,連続戻し交配,世代促進等の技術を用いてGlu-D1d遺伝子をもつ硬質コムギ品種「ユメシホウ」にもち性を導入し,グルテンの強い硬質もち性コムギ品種「モチハルカ」を,熊本製粉株式会社と共同育成した.「モチハルカ」は「ユメシホウ」と比較して穂長がやや長く,容積重と千粒重がやや小さく,外観品質は同程度かやや劣る.穂発芽性は“やや難~難”,コムギ縞萎縮病抵抗性は“やや弱”,赤かび病は“やや弱”で1ランク劣る.それ以外の農業形質は同等である.また,品質特性では,アミロース含有率が極めて低く,ファリノグラムの吸水率が高く,アミログラムの最高粘度時の温度が低く,ブレークダウンが大きい.「モチハルカ」をブレンド使用した小麦粉での加工試験では,やわらかくもっちりした食感の食パン,粘弾性の強い中華麺,もっちり感が高い餃子皮になる評価が得られ,付加価値のある製品の商品化につながるものとして期待されている.

特集記事 2023年第64回シンポジウム(シンポジウム・ワークショップ)報告
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