ダイコン(Raphanus sativus L.)の在来種‘安家’は比較的雑駁な集団で,基本となる赤色の他に赤首や白色の根皮個体が出現する場合があり,根色が安定していない.そこで‘安家’のアントシアニン着色遺伝子に注目し,交雑試験による根皮色の遺伝様式の解明を試みた.‘安家’の自殖後代における分離比,検定交雑および固定系統を用いたF2世代を調査した結果,根皮色は顕性上位の2遺伝子による遺伝,すなわち赤色(R1---),赤首(r1r1R2-)および白色(r1r1r2r2)の遺伝様式によく適合した.アントシアニンにより根皮全体を赤く着色する顕性のR1遺伝子は,赤首を発現させるR2遺伝子より上位にあり,R2遺伝子の有無にかかわらず根皮全体を赤く着色させた.R2遺伝子はR1遺伝子が存在しない場合でのみ,アントシアニンにより赤首を発現させる顕性の遺伝子であった.両遺伝子が共に存在しない場合は根皮が着色することなく白色となった.このようにアントシアニンによる‘安家’根皮の着色には,2遺伝子座が関与していることが明らかになった.‘安家’と他の着色根品種とのF1に対する検定交雑結果および既知の研究結果を,Shirasawa and Kitashiba(2017)によるダイコン連鎖群の分類に当てはめると,R1遺伝子は中国系品種の‘紅心’(中国名‘心里美’)や日本の在来種‘平家’の着色遺伝子と同様に連鎖群Rs7に座乗し,R2遺伝子は西洋小ダイコン品種‘Comet’や日本の在来種‘大館’の着色遺伝子と同様に連鎖群Rs2に座乗すると推定された.‘安家’におけるR1遺伝子のホモ個体とヘテロ個体を比較すると,根皮でアントシアニン発現の強弱に差異がみられなかった一方,花茎,花弁および莢では,ホモ個体よりヘテロ個体の方が顕著にアントシアニンを多く発現していた.花弁色の赤みが強い個体や,莢色が赤い個体のほとんどはR1遺伝子がヘテロであった.これらのことから,‘安家’の花茎,花弁および莢にアントシアニンが少ない個体を選抜することが,早期のR1遺伝子ホモ個体獲得に繋がると考えられた.
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