育種学研究
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硬質もち性コムギ新品種「モチハルカ」の育成
藤郷 誠 乙部 千雅子八田 浩一藤田 雅也小島 久代髙山 敏之関 昌子松中 仁中村 俊樹齊藤 美香山田 徹鳥井 貴博道脇 隼一陣野 和佳奈
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2024 年 26 巻 1 号 p. 39-46

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抄録

もち性コムギは世界で初めて日本で育成されたが,その利用は菓子や日本麺等のブレンド用にとどまっている.その理由の一つとして,グルテンの強い硬質もち性コムギ品種が存在しないことが挙げられる.すなわち,国内外のグルテンの力が強いコムギ品種は一般的にGlu-D1d遺伝子をもつが,現在,日本で栽培されているもち性コムギ品種はこの遺伝子をもたないため,グルテンの力が弱い.このため,強力コムギ特性が求められるパン等へ食感改良を目的としてブレンドした場合,小麦粉全体のグルテンの力を弱めることになる.農業・食品産業技術総合研究機構・次世代作物開発研究センター(現作物研究部門)は,DNAマーカー選抜,連続戻し交配,世代促進等の技術を用いてGlu-D1d遺伝子をもつ硬質コムギ品種「ユメシホウ」にもち性を導入し,グルテンの強い硬質もち性コムギ品種「モチハルカ」を,熊本製粉株式会社と共同育成した.「モチハルカ」は「ユメシホウ」と比較して穂長がやや長く,容積重と千粒重がやや小さく,外観品質は同程度かやや劣る.穂発芽性は“やや難~難”,コムギ縞萎縮病抵抗性は“やや弱”,赤かび病は“やや弱”で1ランク劣る.それ以外の農業形質は同等である.また,品質特性では,アミロース含有率が極めて低く,ファリノグラムの吸水率が高く,アミログラムの最高粘度時の温度が低く,ブレークダウンが大きい.「モチハルカ」をブレンド使用した小麦粉での加工試験では,やわらかくもっちりした食感の食パン,粘弾性の強い中華麺,もっちり感が高い餃子皮になる評価が得られ,付加価値のある製品の商品化につながるものとして期待されている.

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