論文ID: 20J03
高温登熟耐性に優れる中生の水稲系統「東北206号」の出穂期を5~10日晩生化させるため,「東北206号」を反復親,「コシヒカリ」を供与親とした連続戻し交配により,出穂期関連遺伝子座(Hd1, Hd16, Hd18)を組み合わせて「コシヒカリ」型に置換した準同質遺伝子系統群(NILs)を育成し,宮城県におけるHd1,Hd16,Hd18の出穂期改変効果について検証した.Hd1座を「コシヒカリ」型に置換したNILの出穂期は,「東北206号」の出穂期よりも29日遅くなり,Hd16座,Hd18座をそれぞれ単独で「コシヒカリ」型に置換したNILの出穂期は,ともに3日早くなった.当初,出穂期を5日程度遅らせると予測したHd1座とHd16座をともに「コシヒカリ」型に置換したNILの出穂期は,「東北206号」より15日遅くなった.Hd1座,Hd16座,Hd18座を全て「コシヒカリ」型に置換したNILの出穂期は10日遅くなり,育種目標に合致した.予測した出穂期と実際の出穂期との違いは,「コシヒカリ」のHd1,Hd16,Hd18と,「東北206号」が保有するそれ以外の遺伝子の相互作用,あるいは温度や日長等の環境要因が原因と推察された.Hd1座,Hd16座,Hd18座を全て「コシヒカリ」型に置換したNILの中から,農業形質に優れる「東北229号」を選抜した.「東北229号」の出穂期は,「コシヒカリ」より9~10日遅く,高温登熟耐性に優れていた.本研究により,Hd1座,Hd16座,Hd18座を「コシヒカリ」型に置換することにより,行政ニーズに対応した高温登熟による玄米品質の低下を避けられる晩生の有望系統を短期間で育成することができた.