育種学研究
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日本型イネの遺伝的背景への早朝開花性導入による高温不稔軽減効果
平林 秀介田之頭 拓田中 明男竹牟禮 穣若松 謙一石丸 努佐々木 和浩
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論文ID: 23J02

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抄録

イネは開花時に35℃以上の高温にさらされると不稔になる危険性が高まることが知られており,地球温暖化に伴い,高温不稔の発生による収量の低下が懸念されている.高温不稔を低減するには,昼間の高温を避け,気温の低い早朝に開花させる「早朝開花性」が有効である.Hirabayashi et al.(2015)はこれまでに,インド型イネ品種の遺伝的背景に早朝開花性のQTL(qEMF3)を導入した準同質遺伝子系統(Near-isogenic line; NIL)を育成し,開花時の高温不稔発生を軽減できることを実証した.しかし,日本で普及している異なる日本型イネ品種を遺伝的背景に持つqEMF3のNILは育成されていない.そこで,本研究では,日本型イネ4品種「ひとめぼれ」,「ヒノヒカリ」,「にこまる」および「とよめき」の遺伝的背景に戻し交配によりqEMF3を導入して作出したNILを用いて,早朝開花性および高温不稔回避性を検証した.午前6時から室温を上昇させた自然光型人工気象器で開花日1日だけの高温処理を行ったポット試験では,早朝開花性NILはすべての遺伝的背景と高温処理下において,開花時刻が反復親品種より2~4時間早く,35℃に達する午前10時30分までには概ね開花を終えていた.その結果,早朝開花性NILでは開花時の高温ストレス条件に遭遇せず,高いレベルの稔性を維持できた.加えて,出穂期に35℃の日中の連続高温処理を行った鹿児島県のガラス温室内のコンクリート枠水田の試験でも,反復親品種と比較して,早朝開花性NILは高い稔実率を維持することができた.日本型イネ4品種にqEMF3を導入した早朝開花性NILと反復親とで基本的な農業形質に大きな違いはなく,早朝開花性QTL(qEMF3)は日本型イネの遺伝的背景においても,開花時の高温不稔を軽減できる有用なQTLである.

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