育種学雑誌
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ガンマー線照射によって生じたてん菜の細胞質型雄性不稔性
木下 俊郎高橋 万右衛門
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1969 年 19 巻 6 号 p. 445-456

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抄録

てん菜の単胚性系統H-19の種子にガンマー線照射処理(50、100、150及び200kR)を行なったところ、処理当代(M1)の植物は種々の程度の花粉不稔を示し、その中には葯が白色萎凋し、不稔花粉より成る完全不稔型がみられた。種子稔性の高いM1個体について、次代(M2)を養成し、雄性不稔性を再び高頻度で生ずる系統を選抜して次代を養成したところ、雄性不稔性は、M2からM3へ、またM3からM4へ母系を通して比較的高い頻度(約50%以上)で伝えられる事が示された。γ-20及びγ-27系統のM2世代に生じた正常型個体とH-19の無処理個体間で正逆交雑を行なった結果、同一組合せでも母系を異にすることにより、雄性不稔性の出現に顕著な差がみられた。したがってガンマー線照射によって生じた雄性不稔性には細胞質遺伝子が関与すると考えられる。またγ-27系統中の完全不稔型個体とH-2002の正常型個体間の交雑のF2では稔性型(N及びS.S.a):不稔型(S.S.b及びC.S.)を3:1の比に生ずるので、雄性不稔型細胞質には単純優性の花粉稔性回復遺伝子が関与している。この花粉稔性回復遺伝子は単胚性遺伝子と約36%の組換価をもって連鎖するので、さきに報告した(長尾・木下1962)S細胞質の花粉稔性回復遺伝子の一つであるX遺伝子そのものか、あるいはこれと密接に連鎖する遺伝子であると考えられる。正常細胞質を有する複胚系統H-2002を用いた種子照射実験でも、H-19の場合と同様に細胞質型雄性不稔が誘起されることが確かめられた。ガンマー線誘発の雄性不稔個体について小胞子の発育を調査したところ、細胞質型雄性不稔に於ける如く、タペート細胞の顕著な異常が小胞子の退化と密接な関連を有していることが明らかとなった。これらの結果から、ガンマー線照射によって生じた雄性不稔性は、H-19あるいはH-2002の有する正常細胞質型になんらかの変化を生じたためか、あるいはプラズマジーンの突然変異にもとずく可能性が示された。

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