育種学雑誌
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植物における放射線感受性 : II.二倍性イネ属植物の該当りDNA含量と放射線感受性について
片山 平
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1971 年 21 巻 5 号 p. 241-246

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抄録

すでに、SPARROWら(1953;1961a,b;1962;1964;1965)によって、高等植物の放射線感受性と核容積、中間期染色体容積(ICV)との間には、高い負の相関々係のあることが報告されている。一方、イネ属植物の種、品種、系統についての放射線感受性は、種間、品種間、系統間で、かなりの差異のあることが認められている(KAWAI 1962、FUJII and MATSUMURA 1959、NAGAMATSU and KATAYAMA 1959、FUJII 1962)。本研究は、イネ属の二倍性植物を用いて、種および系統間の放射線感受性と核当りDNA含量との関係を明らかにすることを目的として行った。イネ属植物の各ゲノムに属する二倍種について、核当りDNA含量を測定した結果は、すでに報告したところであるが(KATAYAMA 1967)、本研究では、とくに、A、BおよびCゲノムに属する種または系統に関して、同一ゲノムに属する異なる種または系統間の核当りDNA含量の変異をしらべた。結果は第1表にまとめた様に、ゲノム内では有意な差は認められなかった。この結果は前報(KATAYAMA 1967)のそれと同様であることを示すものである。一方、乾燥種子に対して、<60>Coの20、36、45kRを19.74kR/hの線量率で照射し、発芽率、幼苗長、生存率を測定し、さらに、対照区の幼苗長に対して50%の伸長阻害を示す照射線量を推定した。イネ属植物では、感受性には関係なく、かなりの大線量を照射した場合でも種子の発芽は完全で、その後感受性の程度に応じて幼苗は枯死する。従って、本研究で用いた程度の照射量では、全処理区とも発芽率に差異はみられない(第2表)。下種後21日目における生存率をまとめて第2表とした。同表からO.officinalis(W0002)は最も高い感受性を示して20kRで、ついでO.punctata(W1514)は36kRで、それぞれ生存個体を認めることは出来なかった。これに対して、O.sativa(I-1、I-5、I-7、I-17)は強い低抗性を示した。しかるに、これらのDNA含量は、第1表にみられる様に有意な差はなく、大体、B≒A≒Cの関係がみられている。また、DNA含量の最も少ないO.brachyantha(W023)はO.sativaについで放射線低抗性を示した。幼苗長は下種後10日目に測定した。第2表から36kR照射区における幼苗長は、それぞれの対照区に比較して、O.sativa(I-8、I-20)、O.sativa f. spontanea(Y-15)およびO.officinalis(Y-21)では約11~24%であったのに対し、同じO.sativaのI-1、I-7、I-17では70~80%と高い低抗性を示し、O.brachyantha(W023)はこれについだ。核当りDNA含量と幼苗長を50%阻止するために必要な線量との関係をまとめて第1図とした。同図からも明らかな様に、両者の間には明瞭な関係は認められない。以上の結果から、イネ属の二倍性植物に属する種および系統間の放射線感受性は、単に、核当りDNA含量のみによらず、照射によるDNA障害の修復現象との相互作用によると考えられる。この修復機構に関しては、さらに今後の研究にまたねばならない。

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