抄録
イネ品種のいもち病に対する抵抗性の遺伝子型の同定のために使用されているいもち病菌の7菌系の胞子形成力と病原力に関して比較した。そのうち、胞子形成力については前報に報告した(第1表に略述)。ここでは病原力に関する調査結果を示す(第2、3表)と共に、病斑長(第4、5表)や病斑の生長速度(第6、7表)について調べた結果を示し、それらの間や、過去10年間に行なった多数の実験結果(既報)からえた病原力や、オオムギ穀粒培地(以下オオムギ培地と略称)やオートミール煎汁しょ糖寒天培地(オートミール培地)上での胞子形成力の平均値との関係を見た。本研究で調べた病原力(b+10bg+30bG+40pG で表現、ここでb、bg、bG、pG はそれぞれの型の病斑数)、病斑長、病斑の生長速度のうち、病斑の生長速度にのみ有意な菌系間差異が見られた。それぞれの形質の間の相関係数を計算したところ、宿主上の胞子形成量は、オートミール培地上の胞子形成量と負の、10年間の病原力の平均値とは正の相関をえ、オオムギ培地上での胞子形成力との間には明瞭な相関は認められなかった。この研究でえられた病原力と、10年間の研究の平均値としてえられた病原力との間の相関係数は平均+0.584で必ずしも高くなかった。また、10年間の研究からえた病原力は、7菌系の病原力を示す値として最も信頼しうると考えられるが、これと最も相関の高い調査形質は、病斑の生長速度で、宿主上の胞子形成量と病原力がこれについだ。病斑の長さとの間にはほとんど相関は認められなかった。病原力は環境変異のきわめて大きな形質で、数回の実験でも有意な菌系間差異はえられなかったが、宿主上での胞子形成量は、それよりも安定した形質で、単一の実験では胞子形成量の方が、調査のために、より多くの労力を要するが、信頼できる結果がえられる。