低線量のガンマ線照射による生長抑制の原因を細胞学的に明らかにしようとした。発芽初期の種子に1,800Rまでのガンマ線を照射し、浸漬後22時間の第1葉部間分裂組織内の細胞分裂指数と、10日目の第1葉の長さとを調査した。両者間には高い相関々係が認められた。したがって、照射による芽生第1葉の生長阻害は主にその分裂組織内における分裂細胞数によると考えられた。つぎに、細胞分裂指数の減少と染色体異常の発現に関して、細胞サイクルにおける放射線感受性を調べた。種子浸漬開始から第1葉の部間分裂組織に細胞分裂像が現われるまでのいろいろな時期にX線125Rを照射して、種子浸漬後24時間目で細胞分裂指数と染色体異常の頻度を調べた。細胞分裂後期の染色体異常頻度は、G
1末期やS~G
2初期の照射で増加し、細胞分裂指数はG
1初期やG
1中期照射で減少したことから、放射線照射による染色体異常の誘発と細胞分裂障害とは別の機構によると推定された。放射線による細胞分裂障害を360R~1,800Rのガンマ線照射で解析した。S末期~G
2期の照射では、360R~780Rの範囲で線量の増加とともに細胞の分裂期への進行が阻害された。またS期やG
2期に1,800Rを照射すると細胞死がおこると考えられた。つぎに、種子浸漬後14時間目に180R~780Rのガンマ線を照射し、その後1時間ごとに第1葉を固定して、その部聞分裂組織における細胞分裂指数を調べた。S末期~G
2初期に180R以上を照射すると前期から中期への細胞分裂の進行が阻害されること、またS初期~S中期に360R以上を照射すると
G2期で進行が阻止されるが、約2時間ののちに回復して進行を再開することが明らかにされた。以上の結果、低線量照射による第1葉の生長阻害は、細胞分裂開始の直前のG
2期で細胞分裂サイクルの進行が一時的に阻止されて、分裂組織内の細胞分裂指数が減少し、細胞数の増殖が遅れるためであって、放射線照射によって分裂組織細胞内に染色体異常が生じたためではないと推論された。
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