抄録
真性低抗性品種のほとんどすべてが罹病化することが各国で報告され,真性低抗性遺伝子の単独使用は危険であることが現在ではむしろ常識となっている。今後の抵抗性育種の方向として種々の異なる抵抗性遺伝子をもつ品種の混合栽培(多系品種),交替栽培,一つの品種中への種々の低抗性遺伝子の集積,圃場低抗性の利用,圃場低抗性と真性低抗性の組合せなど種々の方法が提案されているが,それらのどれが最も効果的な方法か較べる方法は確立されていない。ここでは一つの方法としてシミュレーションによる真性低抗性遺伝子と圃場低抗性遺伝子の効果の推定を,基本式として[numerical formula]を用いて行なった。yは時間tにおける累積病斑数,y0は伝染開始期の病斑数,rは伝染速度,Y'は最終累積病斑数の上限,Tは累積病斑数の増加が止まる時期である。長野県農業試験場〔栗林・市川(1952),下山ら(未発表)〕のいもち病菌の飛散胞子数に関するデーターからr,yT(T時におけるyの値),θ(越冬率),logyT,logθの分布を調べ,rとlogθがある平均値と標準偏差をもつ正規分布をすることを確認Lたのち,同一の平均値と標準偏差をもつ正規乱数から毎年rとlogθを選び,それを用いて上式によりyTを計算し,それに任意に選んだθをかけて次年度のy0を求め,この過程を20年ほど続け,この計算を200回行なって平均値を求めた。長野農試の当時の栽培品種にそのまま真性低抗性を入れた場合平均5年目に罹病化したが,クサブエ並に圃場抵抗性が除かれた場合3年目に罹病化することを示した。一般に圃場抵抗性は罹病化後の罹病度を低くするだけでなく罹病化までの年数を延ばす作用をもつことが示された。