抄録
Cosmos caudatus H.B.et K.はBurma地方の野生種で,花器や葉や種子の形態は栽培種のCosmos sulphureus Cav.(キバナコスモス)によく似ているが,花色は後者の持たない明るい桃色をしている。そこで両種間の交種が成功すれば,後代に明るい桃色花をもつキバナコスモス型の新種を育種できる可能性がある。1966年以降,両種間で多数の交雑を試み,5個体の雑種を作ることに成功した。そのうち4個体は完全に不稔であったが,1個体の最下方の枝から15粒の種子が得られた。その後代では多かれ少なかれ稔性のある個体が分離し,現在,F7世代に至っている。雑種F1の花色は赤みがかった燈色であるが,F3およびF5世代で明るい桃色花の個体を分離し,固定することに成功した。しかしこの系統は,草丈,開花期,稔性などの点で多くの難点を持っており,実用種として用いるまでに至っていない。両親と雑種の花弁の表面色を測色色差計を用いて測定したところ,雑種のうち燈色花をもつ個体の大多数の測定値はC.sulphureusの測定値と重なり,一方桃色花をもつ個体の測定値はC.caudatusの測定値に類似していた。それらの花の色素を分析した結果,両親と雑種に共通の2種のアントシアニン(シアニジン-3-ラムノグルコシドとシアニジン-3-グルコシド)が検出された。またC.caudatusおよび桃色花の雑種は,C.sulphureusの持つ黄色色素のカルコンやオウロンを完全に欠除していた。両親と雑種F6の染色体数を調べた結果,C.sulphureus(2n=24)C.caudatus(2n=48)雑種F6(Ccaudatus×C.sulphureus)(2n=52~62)で,これらの結果から,雑種F1で一つの枝だけが稔性を持つようになったのは,複二倍体が成立したためであり,その後代では減数分裂が乱れて体細胞染色体数に変異を生じたものと推察している。