抄録
水稲農林8号の種子の放射線および化学物質処理により誘起された長稈突然変異体の遺伝様式を調べるため,稈長が原品種比で110%以上に増加した長稈突然変異5系統と農林8号の間で正逆交配を行なった。各交配組合せ当り,F110個体,F2360個体およびそれらの交配親36個体を25×15cmの栽植密度で栽培した。到穂日数,穂長を調査し,成熟期に全個体を抜き取り,主稈について稈長および節間長を測定した。調査形質に関して,すべてのF1個体は正逆間で差がなく,また,種子稔性は正常であった。LM-1×農林8号のF1個体の稈長,節間長,穂長は原品種と類似し,節間伸長のパターンについても原品種との間に顕著な差異はなかった。F1個体の到穂日数は両親の中間の値を示した。F2集団における稈長および到種日数の分布は2頂性を示し,F2個体は短稈・早生群(農林8号型)と長稈・晩生群(LM-1型)の2群に明瞭に分かれ,これら2群のF2分離は3:1の期待比によく適合した。この結果はLM-1の形態的特徴を基にほ場観察によりF2個体を正常型と突然変異型の2つの型に群別した結果とも一致した。以上の結果から,LM-1は単一の劣性遺伝子によって支配され,他形質における同時変化は突然変異遺伝子の多面発現的作用あるいはそれと密接に連鎖する遺伝子の同時的突然変異によるものであると結論した。LM-3X農林8号のF1個体の程長,到穂日数はLM-3に類似し,穂長は両親の中間であった。稈長および穂長の組合せにより,F2個体は長稈・長穂群(LM-3型)と短稈・短穂群(農林8号型)の2群に分かれ,これら2群のF2分離は3:1の期待比と適合した。また,ほ場観察によってえられた分離比ともよく一致した。以上の結果から,LM-3は単一の優性遺伝子により支配され,種々の形質の同時変化は優性突然変異遺伝子の多面発現的作用あるいは密接に連鎖する遺伝子の突然変異に起因するものと結論した。LM-5×農林8号のF1個体の稈長,到穂日数,穂長および節間伸長のパターンはLM-5に類似した。しかしながら,F2における分離から,LM-5に関与する遺伝子数を明らかにすることはできなかった。LM-1およびLM=一3における種々の形質の同時変化の原因を明らかにするため,F2個体より選抜した後代について調査を行なう必要がある。