育種学雑誌
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タバコの葯培養における花粉からの不定胚発生に対する培養葯の役割
有賀 小海中島哲夫
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1985 年 35 巻 4 号 p. 390-397

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抄録

タバコは,無機塩と蔗糖のみの単純な培地における葯培養で,花粉から不定胚発生を経て多数の半数体植物が得られる.従って,花粉からの不定胚発生の進行に必要な要因は,培養葯から与えられると考えられており,培養葯の働きの重要性は,多くの研究者によって指摘されてきた.しかしながら,その働きの具体的な内容は明らかにされていない.本研究においては,タバコの花粉からの不定胚発生に対する培養葯の働きを解明することを目的に,葯組織の形態的変化と澱粉顆粒の消長を観察し,また,葯に含まれる可溶態糖および遊離アミノ酸を分析,調査した. 植物体上で発育する葯においては,発育に従って葯の隔壁柔組織が崩壊し,花粉が成熟する花粉体細胞分裂後3日目には,完全に消失するのが認められた(Fig.1 a,d,e).また,花粉体細胞分裂期の葯組織には多数の澱粉穎粒が存在し(Fig.1 b,c),花粉に澱粉が蓄積する時期(花粉体細胞分裂後2日目)にそれらは消失した.一方,花粉体細胞分裂期の葯をNITSCH(1972)の寒天培地に置床し,27℃で培養を行なうと,植物体上の葯に比べて時間的には遅いがやはり,葯の隔壁柔組織の崩壊が観察された(Fig・2 a,d,e).葯組織に含まれる澱粉穎粒は置床後ただちに消失し(Fig.2 b,c),その後再び出現することはなかった.

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