コムギ・エギロプス両属には大きな細胞質の遺伝的変異が存在している.この細胞質変異をパンコムギ育種に利用するためにこれまでたされてきた試みとしては,(1)異種細胞質によって誘発される細胞質雄性不稔の雑種コムギ育種への利用,及び(2)異種細胞質とパンコムギ核の相互作用に起因する核細胞質ヘテローシスのパンコムギ育種への利用,の2つが挙げられる.本研究は,異種細胞質のパンコムギ育種への利用の第3の方策として,個々の異種細胞質に適合した核遺伝子型をパンコムギ品種間雑種の後代において選抜し,これを通して実用的に既存パンコムギ品種に勝る系統を育成できる可能性があるかどうかを検討することを目的とするものである.本論文はこの研究の第1報であり,日本の2パンコムギ品種,農林26号と農林61号の交雑組合せについて,(1)親系統の諸形質及び個体間変異,(2)F
1世代におけるヘテローシスと個体間変異,(3)F
2世代の諸形質とその変異性,及び(4)重要実用形質の広義の遺伝率,の4点に対し,不稔性を誘発しない5異種細胞質がどのような影響を与えるかを研究したものである.
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